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第9話「それが良いのかキミたちは」

 田舎の教会ではありがちな環境だ。


 フォウルがルクトリア教会に対し、極めて平常心を心掛け客観的に抱いた感想はそんなものだった。


 正直な部分を言えば、シズに何しやがるぶっ壊すぞなんて思いも確かにあったが、鋼の理性で実行には移していない。


「おかげで何の苦もなく教会に入れたことを考えれば、助かったと思うべきか」


 教会を訪れた時、自ら言うまでもなく対応した司祭はシスターにならないかとフォウルに迫ってきた。


 伸びた鼻の下、好色であることを隠そうともしない不躾な胸に注がれた視線。

 更に言うのであれば、修道女たちはそこそこにキレイな女が集まっていた。もちろん、その中でも群を抜いてシズが美しいとフォウルは思っているが。


「アルティア信仰、か」


 この世に存在する信仰とは唯一神、アルティアを崇めるものである。


 宗派とでも言うべきか、何々派であったりと信仰の形は国や地域によって違いはあるにしても、祀り上げる対象はアルティアのみ。


 そうだからこそ、ある程度各地に点在する教会によって様々な違い、風習があった。

 入信の際に受けた説明は人々に奉仕せよと言った信仰の仕方であったが、神により近い位置にいる位の者への敬意を大切にせよとわざわざフォウルは言われた。


 率直に言えば、自分に奉仕しろと言う意味だろう。

 何しろ、目が、態度がそう言っていたのだから間違いようもない。


「それでも、あれだけの数が集まるってのは……何とも言えないな」


 ルールというべきか、カラーというべきか。

 各地にある教会によって違うものが数ある中でも共通していることと言えば、信仰の道を歩もうとする女は基本的に食うに困った人間であるというもの。


 すなわち、ルクトリアにいる修道女たちは、食うに困って男に身体を売るか、神に身体を売るかといった選択を迫られた結果、あそこにいると言うことだ。


 もちろん、そういった理由なく神の道を歩みたいと神の門を叩く者もいるが、全体の一割に届くかどうかと言った人数である。

 特に職に乏しい田舎であればあるほど、食べたいが故にシスターとなるものは多い。


「これだから田舎は、なんて言いたいところだけども。中央教会はもっとドロドロしてるわけだし、これくらい可愛いものだと思うべき、か」


 やれやれと肩をすくめた後、少ない荷物をカバンにしまっていくフォウルだが、ふと思い当たる。


「……シズは、どうしたんだろうな」


 パーティとして共にいた頃から、シズは過去のことを話さなかった。

 元は孤児院の責任者であったことは聞けたが、それ以後自分たちと行動を共にするまでのことは一切聞けていない。


「あのシズだ、身体を使って聖女になるなんてことはしないと思うけど」


 何しろどこかのエロ妖精と同じく、純潔しかダメだというユニコーンまで従えていたんだしと。


「なら、どうしてシズは中央に?」


 今更と言えばそうなのかもしれないが、できればその辺りも推し量れる何かが知れるといいなと思いながら。


「……とりあえず、行くか」


 金を稼ぐ、アリサと幸せになる、シズも幸せにする。


 やるべきことではなく、やりたいことをするのは気合の入り方が違うと実感しながら、フォウルは宿を後にした。




「わー……おっぱいだ」


「歩くおっぱいだ」


「……でけぇ」


「くっ……あ、あたしだっておっきくなれば……!」


 フォウとして孤児院にやってきてみれば子供たちの反応はひたすらにわかりやすかった。


 フォウル自身もなんでこんなにでかくなったのかと頭を抱えた部分ではあったが、なってしまったものは仕方ない。


 激しく動こうとすれば付け根のあたりが痛くなるし、早くも肩こりのような症状が現れつつあるが気にしない、そうとも仕方ないのであると。


「こここ、こらーっ!? ふぉ、フォウさんはおっぱいお化けなんかじゃありません! きき、今日からここでみんなと一緒に過ごすことになった人です! え、えとえと、フォウさん? では、挨拶をごめんなさい!」


 おっぱいとは言われたがお化けとは言われていない。


 そんなツッコミを我慢しつつ、出来る限り優しいと思う表情を作りながら。


「初めまして、皆さん。今日からお世話になりますフォウ・アリステラと言います。わからないことばかりなので、色々教えてくださいね」


「ずきゅんっ!」


「あーもう、好き」


「だんしー!?」


 嵐、ここに生まれる。


 惚れるならシズにが先だろうとフォウルは思わないでもないが、見た目からして性的な魅力に惹かれてしまう気持ちもわからないではない。


 幼い男の子はともかく、歳を数えるのに両手が必要になっただろう程度の男の子たちはこぞってフォウという女性へ目にハートを浮かべた。


「わたしはあまり女の子として扱われたことがないので、うん。女の子のことも、教えてくださいね」


「はぅっ!?」


「な、なにこの気持ち」


「いいよおしえるよちゃんとあたしにまかせて」


「まもらないと」


 この辺りは元が男であるが故か、謎の色気としか言えないものに女の子たちもあてられたようで嵐は過ぎ去った。


「ふぉ、フォウさん……お、おそろしいこっ!」


 だから戦々恐々としているのはシズだけ。


 むしろ、教会でフォウへと見惚れてしまっただけに女の子の気持ちもよくわかってしまう。


「シズさん? えぇと、この後わたしはどうしたらいいですか? あ、あぁいや、シズお姉様と呼ぶのでしたっけ?」


「おねーしゃまっ!? いいいいい、いえいえ!? シズさんで結構ですよよ!? まま、まずはお部屋に案内しますねっ!?」


 そんな好意に包まれながら、フォウルのフォウとしての活動が始まった。


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