目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第7話「女体化変身はロマン」

 教会を調べる。

 そう決めたフォウルだったが、大きな問題が幾つかあった。


「む、むむ……」


 男子禁制、女の園。

 そんな単語が示す通り、教会は基本的に男の立ち入りを認めていない。


 もちろん、神に祈りを捧げるためであれば老若男女を問わないが、内部を調べるには向かない。


 関係者。そう、言うなれば教会関係者としての立場で潜り込まなければならないのだ。


「真っ当に教団に入団する? いやいや、それこそ時間が足りなすぎる」


 教会関係者にも男はいる。

 しかしそれは幼い頃より神道に入り、歩みを進めてきた者だけだ。

 時間をかけ晴れて聖職者となっても、薬売りの如く大きなカゴを担いでなんちゃって聖水を売りまわるなんて下積み期間もあるため現実的ではない。


「やっぱ変身しか、ないかぁ」


 故に時間をかけずに教会関係者となるためには女になる必要があった。

 女になり、シスターとして教会の門を叩けばそれで関係者となれる。


 同時に、ルクトリアで活動するにあたってフォウルがフォウルだと露見することも避けたかった。


 同郷の者に危ない橋を渡ろうとしているところを見られでもしたら、それこそアリサのためを想って全力で引き留められてしまうだろう。


偽装身分アンダーカバーね……なんだかなぁ、犯罪者にでもなった気分だ」


 思わず肩を落としてしまうフォウルだ。

 善行を為そうとしているとは言わないが、かつての英雄と祀り上げられた時とは大きく違う。


 アリサとの幸せ結婚生活を目指すフォウルとしては、自分の名に傷をつけたくないと思う気持ちが強くある。


「まぁ、あのエロ精霊のこともあるし。偽装として女に慣れておく必要もあるか」


 結局、将来的に必要であると思える部分は確かにある。

 元よりフォウルがエロ精霊と称している精霊対策の一つに、自身の女体化という選択肢はあったのだ。


「そうともメリットはある、必要なことで、その練習くらいに思っておけばいいんだ」


 自分を納得させるかのように何度か呟いて、最後に大きく頷いた。


 覚悟完了である。


「じゃあ、どういう容姿にするか、だが」


 今更ではあるが、フォウルは仮面マスカレイドという変身魔法を習得している。

 正確に言うならかつて習得し、その気になれば今の自分でも使用できると言うべきだが、何にせよ性転換することは可能だ。


 しかしながらにマスカレイドと言う魔法は、一度決めた容姿を変更することに多大な魔力を消費する。


 これから魔力の絶対量を増やせるように訓練を積む予定ではあるが、そうであっても容姿の変更は当分先の話になるだろう。


「……胸以外は最高の女、ねぇ」


 精霊の言葉を思い出せばそんな意見。

 かつてアリサと契約した精霊はアリサのことをそう評した。


 つまり、アリサの控え目な胸を大きくすれば精霊の関心を引ける可能性が高まるということ。


「あまり似せすぎても不都合がある。アリサ感を残して……ふむ」


 なんだかんだでフォウルが思い描く理想の女はアリサで固定されている。

 目を瞑る必要もなくアリサの姿は思い起こせるし、なんなら幻影ミラージュの魔法でアリサの幻影を本物と寸分の違いもなく顕現できる。


 愛が重すぎると言えばそうだが、頭がキレるわりに鈍感賢者であった期間が長かっただけに、恋だと自覚してアリサへとどっぷりはまってしまった結果と言えるだろう。


 そうして。


「――マスカレイド」


 イメージが固まった。


 宿の一室にフォウルを中心に放たれた淡い光が広がる。


「ふぅ。あーあー、俺は……いや、私? うーん、わたしで良いか。名前は……フォウでいいや。わたしはフォウ、です、よろしくおねがいします。うん、まずまず」


 光が収まれば先程まで部屋のなかにいた長身黒髪の優男は何処にもおらず、代わりに桃色の髪を腰元まで伸ばした美人というよりは可愛いという言葉の似合う、トランジスタグラマーな美少女がいた。


「げ、アリサ感は何処にいったよ……微妙に魔法制御しきれなかったか?」


 男の時に着ていた服だけにサイズが合わずぶかぶかなままではあったが、それでもわかる大きな胸。

 顔立ちはあどけなさが強く、声には幼さが残っている。

 間違いなく、実年齢より遥かに下に見られてしまうだろう。


 まさしくフォウルが言ったように、アリサとは似ても似つかぬ容姿ではあったが。


「まぁ、あのエロ精霊は好きそうだし、仕方ないか」


 ある意味好都合ではあると納得して、フォウルは再び男に戻る。


 変身を終えたフォウルの手にあるものは仮面。

 以後、この仮面を被れば先程の姿になることができる。


「とりあえず衣類を準備しなきゃな。女物の下着……はぁ、納得して覚悟も出来ているけど、気が重いな」


 なりたくて女に変身しているわけではない。必要があるから仕方なく。


 マスカレイドの魔法を使えるようになった時もそうだ、必要に迫られたが故に覚えたという経緯があった。


 もっとも、その時はすぐに解除できたためわざわざ下着等を準備する必要はなかったが。


「女口調も練習しておくべきか。と言ってもな……とりあえず丁寧に話すことを心がけるくらいしか出来ないけど。まぁ、大丈夫だろうシスターになるんだし」


 軽く両頬を叩いて気持ちを切り替えたフォウルは、ぶつぶつと口調を練習しながら部屋を後にした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?