決勝トーナメント第四試合。
有給の冒険者VSプリンセス・H
プリンセス・Hはわたしがアドリブで登録した姫川さんのリングネームだ。
『プリンセス・Hはなんと現役女子高生! ナルミンと同じ女子校出身だそうです!』
ナレーションが入ると姫川さんもばつが悪そう。プリンセス・Hはキメ過ぎだったかな。
『有給の冒険者さんは文字通り有休を使ってこの大会に参加しているそうです!』
会場からどっと笑いが起こる。初老にも見える有休の冒険者さんはふだん会社員をしているそう。奥さんと子どもがギャラリー席から手を振っている。
対戦開始。
第一ラウンド。じゃんけんで勝った姫川さんは1P側でアストリアを選んだ。
有給の冒険者さんはクレリアを選ぶ。神官見習いのクレリアは、主人公である傭兵の青年アストリアに恋心を抱く一四歳の少女。アゼルというネコにそっくりな使い魔を連れている。その体に秘密を持っているが、アストリアと両想いになるカップル同士の対決だ。
開幕とともにクレリアは積極的に攻め込む。クレリアはランキング下位のキャラクターで背が低いために技のリーチがなく、必殺技のパンチ不足で愛がなければ使いこなせない。クレリアで決勝まであがってきた有給の冒険者さんは相当の達人だ。
クレリアの必殺技『アゼル! 行って!』が発動。
羽の生えたネコのようなアゼルが遠間からチクチクとダメージを与えてくる。
それをぜんぶまともに喰らう姫川さんではなかった。
アゼルの出戻りにいっきに距離を詰めて接近戦へ持ち込む。するとクレリアは大ジャンプでアストリアを飛び越し画面端へ。またチクチクと攻撃してくる。
そんなことを繰りかえしているうちにタイムはもう半分以下。
せこいけどこれも立派な戦術。クレリアは技をだしているうちにゲージもフルに溜まっている。
心配になって対戦席の姫川さんを見ると、彼女は舌でくちびるを舐めた。
彼女のアクアマリンに類似した瞳がひときわ強く光っているのは照明のせいだけではない。彼女の宝石はひときわ美しく輝いている。
なにかやるつもりだ。
アストリアは前ダッシュでいっきに距離を詰めた。
クレリアはそれを待っていた。
画面が暗転する。クレリアの超必殺技『アゼル‼ その人噛んでいいよ!』が発動!
アゼルが幻影とともにアストリアに襲いかかる。
姫川さんは相手が超必殺技を発動させることを読んでいたようだ。
アゼルの攻撃をガードしながら演出が終わるのを待った。
残りタイムは一〇秒。
超必殺技の終了間際の隙に果敢に攻め込む。
立ちA連打からしゃがみB、そこから必殺技『ラッシング・エッジ』、空中に浮いた相手に追い打ちをかける。画面が暗転した。超必殺技『二刀流乱舞の太刀』が極まる。クレリアのライフがめりめり減っていく。
そこでタイムオーバ―。
アストリアのライフがクレリアより勝っていた。
一戦目は姫川さんの勝利!
二戦目。
クレリアは戦法を変えた。接近戦に持ち込み通常技の連打から必殺技につなごうとする。アストリアは正面から打ち合う。
有給の冒険者さんの連続技・連係の技術もかなりのものだ。姫川さんと互角かもしれない。技術が互角ならキャラクターの性能が勝敗をわけることになる。
キャラクターの性能が勝っているアストリアがライフに差をつけていく。
それでもアストリアのライフを限界まで減らした有給の冒険者さんはすごかった。
アストリアは接戦の末クレリアをKOした。
姫川さんはわたしを見て微笑んだ。大袈裟に喜ばないのは対戦相手に対する気づかいだ。姫川さんは一七歳にして一流の武士のごとく〝残心〟を身につけている。
やったー!
決勝で姫川さんと対決することができたら!
そのためには韓国人の朴銀優さんに勝たなくてはならない。
プリンセス・H 準決勝進出。