わたしこと鳴海千尋の第一回戦突破の興奮も冷めやらぬなか、第二試合のヴァージルVS
ヴァージルは日本文化大好きのアメリカ国民。大学で日本文化を学んでいる大学生。
対する朴さんは眼鏡をかけた理性的な青年という印象。その印象は見当違いではなく理系大学出身だそう。在学中にプロゲーマーにスカウトされたそうだ。
ふたりともわざわざ自分の国から自費で日本まで渡航してGEBOに参加している。
それは母国では『メディウム・オブ・ダークネス』をやりこんでいる人口が少なく大会も無に等しいからだそうだ。
じゃんけんで勝ったほうが1
これは1Pと2Pでは、1P側の処理を優先するコンピュータ―上の問題で、1P側が有利といわれているから。
じゃんけんに勝ったのはヴァージル。
ヴァージルはシーフのアルフレッドを選択した。会場にどよめきが起こる。
シーフのアルフレッドは原作小説では主人公パーティのまとめ役だがいまいち出番が少なく、それが反映されたのかゲームでも強力な技が乏しい。対戦ダイヤグラムでは最下位である。
対する朴さんはグルガン=ガーランド・エメリッヒを選んだ。
グルガンは原作小説第三巻に登場。暗殺集団ヴァルケインの超A級暗殺者を名のる老紳士。ソードマスターのシオンと闘い、負傷した右手を義手に改造した。人間のキャラクターでは最年長である。
この試合は見ものだ。海外勢の実力はいかほどか。
第一ラウンド。
アルフレッドは必殺技『ステルス・ウォーク』で姿を消した。これは原作小説にはない技だ。見せ場が乏しいアルフレッドは多くの技がMODオリジナルだ。
この技のすごいところは対戦台を使用して技を発動した場合、相手のモニタからアルフレッドの姿が消えるところ。
観客用に設置された大型スクリーンにはアルフレッドがグルガンの背後に近づくのが見えた。
アルフレッドの必殺技『ダガー・エッジ』が極まるかに見えた。ヒットの瞬間、直前の一フレーム、グルガンの体が青白く光る。全身無敵のバーストだ。
『ああっーと! 朴のグルガンはステルス・ウォークを読んでいた!』
『おそらく画面のスクロールからアルフレッドが背後にまわったことに気づいていたのでしょう。技を発生させるときは砂ぼこりのエフェクトがでます。それを注意深く見れば見切るのは不可能ではありません』
実況と解説員が説明を行ってくれた。
でも、そんなことできるの? 理論的に不可能ではないけど真剣勝負の場で実践する朴さんは凄いテクニックの持ち主だ。
バーストで吹っ飛ばされたアルフレッドにグルガンの猛攻!
立ちA連打→低空ジャンプB→空中必殺技『アサシン・ネイル』→空中に吹っ飛んだアルフレッドをダッシュで追いかけてそこから立ちC→特殊技の心臓つかみ取り→必殺技『ドリル・トレイン』→超必殺技『絶命弾』!
一八ヒットコンボ! 即死KO!
このゲームでここまで精度の高い連続技は観たことがなかった。
わたしはこの人に勝てるの?
つぎの対戦相手の対策を練る貴重な時間なのにわたしは手の内に気味の悪い汗をかいていた。
第二ラウンドも危なげなく朴さんが勝利する。