第一試合 ナルミンVSドドルチェ
ナルミンはわたしこと鳴海千尋のリングネーム。対するドドルチェは二十代の男性だった。ラフなTシャツが印象的。Tシャツに『助けて』とプリントされている。へんてこだなあ。
でもいつかの男性みたいに対戦相手が女性だからといって失礼な態度を取ったりしなかった。
試合開始。
わたしの操作キャラクターはキース・ストライダー。
ドドルチェさんの操作キャラクターはベルナディス・ロウ。
ベルナディスは原作小説では第一巻に登場。女だてらに盗賊の首領をしていたが、主人公たちと出会い盗賊を辞める決意をする。鷹を操るテクニカルキャラクター。
第一ラウンド。ベルナディスは鷹のシオジンを操り牽制攻撃をしてきた。
チクチクと攻撃され、ガードしても、削りダメージがばかにできない。
キースは飛び道具を持っていない。近づかなければ投げを極められないのだ。
一歩ずつ、敵の攻撃を正確にガードしながら接近していく。
ベルナディスが戦法を変えた。飛び蹴りからの接近戦がはじまる。
接近戦は望むところだ。
ベルナディスの必殺技『ブラッディ・ウィップ』を正確にガードして技が終了する間際の隙にキースの必殺技『皆殺しの乱舞』を放つ。連続ヒット……するかに思えた。
ベルナディスはABC同時押しの【バースト】で全身無敵になり切り抜ける。さすが決勝トーナメント進出者だ。
勝負は振りだしに戻ったが、ゲージはわたしが不利。アグレッシブにならなければ格闘ゲームは絶対勝てない。
一気呵成に攻め込んだ。地上技の連係からなかば強引にコマンド投げ『ばりばりに引き裂いてやる』を極める。
ギャラリーの歓声を背中に浴びた。
そこからはわたしの独擅場。
ベルナディスが起き上がりに放った超必殺技『シオジンデルタアタック』を
技の硬直が抜けていないベルナディスは投げに対してまったくの無防備。もう一度『ばりばりに引き裂いてやる』を極めるとベルナディスのライフは数ドット!
ベルナディスを削り倒すのは難しくなかった。
ゲージを大幅に残して第一ラウンドはわたしの勝利だ。
第二ラウンド。
ゲージを使い切ってしまったベルナディスに対して第一ラウンドでゲージを温存したわたしは終始有利な試合展開で相手を詰めていく。
まるで詰め将棋のようだ。一つひとつ相手の戦術を潰して、自分の有利な状況をつくる思考ゲーム。そしてそれを可能にするのが戦術を体現させるだけのコマンド入力。格闘ゲームは至高の対戦ツールだ。
ベルナディスは必死にゲージを溜めようとする。隙だらけだ。
ダッシュから距離を詰めて接近戦に持ち込んだ。
相手がわたしの技をPディフェンスした。
ベルナディスは得意の空中戦に持ち込むためにジャンプする。
わたしは前ダッシュでベルナディスの足元をくぐる。
そこでわたしはコマンドを左右反転して入力した。相手のジャンプで左右が入れ替わるとコマンドが逆転するのだ。画面が暗転する。
ベルナディスの着地と同時に背中からキースの超必殺技『おれたちの聖戦』発動!
キースが所属していた暗黒傭兵部隊の亡霊がベルナディスを攻撃する。ライフはめりめり減っていきKO!
『おれたちの聖戦』は演出が派手だが発動後の無敵時間が存在しないため実戦ではほとんど使われない魅せ技である。ギャラリーの歓声がひときわ高くなる。
わたしの勝ちだ!
ナルミン(鳴海千尋) 準決勝進出。