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5-5 文化祭当日

琴流ことながれ女学院文化祭当日。通称「コトジョ祭」

体育館で文化祭開幕式が行われると二日間に渡る文化祭がはじまった。交代で自由時間もある。


わたしたち天文部は部室でペルセウス座流星群の動画配信プラスストーリーテリングをする。メンバーは四人しかいないのでスケジュールはキツキツ。でも最高に充実していた。


姫川さんが黒板前の大きなテーブルに文庫本を置いた。さらに小型サイズのアーケードコントローラー(通称アケコン)まで。


「姫川さん、これはなんのために?」

わたしこと鳴海千尋が質問すると姫川さんは目を光らせた。なにか企んでいる顔である。


「トラップよ」

「トラップとは?」


「メディウム・オブ・ダークネスの原作小説とアケコンを見て反応したお客は格ゲーをやっている可能性が高い。在校生ならそのままスカウトする。中学生のお客さんは女子ならこの学校に入学する可能性がある。もうわかるわね」


姫川さんの真の目的はこの学校にeスポーツ部をつくること。そのためにはメンバーを五人以上集めなければならない。わたしたちはいま四人。あとひとりのメンバーがどうしても欲しいところだった。



村雨さんの原稿をもとにしたストーリーテリングは全員で意見をだし合い最終原稿を完成したものだ。


カーテンを目張りしてプロジェクタ投影したそれは、完成度が高く臨場感爆群である。


ストーリーテリングのリハーサルも入念に行った。準備は万全。

お客さんの呼び込みも順調。口コミでどんどん部室に人が集まり一時入場を制限するくらいだった。


「つぎの上映は一一時になります」


三〇分の上映が終わり、照明をつける。

お客さんたちはぞろぞろと退室した。

そのなかで小説やアケコンに反応したお客さんはいなかった。

不発かも……。


そのとき、眼帯をして腕に包帯を巻いている大けがをした女の子がふらりと部室に入ってきた。


「すいませ~ん。プラネタリウムはここ?」


天文部部室にふらっと現れた包帯だらけの少女。ちょっと恥ずかしいくらいの白地のブレザーを見にまとっている。髪は青色に染め上げ、もみあげ部分を伸ばした触覚ヘア。右眼には格闘ゲームのキャラクターがするような大きな眼帯。左腕には包帯が巻きつけてある。

彼女はとても奇妙な来訪者だった。


「いえ、プラネタリウムではなくてですね。流星のストーリーテリングです」


部室にはいまわたしこと鳴海千尋と二年生の折笠さんしかいない。わたしが受け答えした。


「そうなんだ」


「つぎの上映は一一時からですよ」


「ふーん」


彼女はもうわたしたちに興味を無くしてしまったみたい。


「じゃあ、そのころにまた来る」


彼女の言葉は態度とは裏腹に好意的だった。

ミステリアスガールだ。


彼女が退室しようと体の向きを変えたそのとき。


「あっ‼ メディウム・オブ・ダークネスの原作小説じゃん! しかも初版! めちゃくちゃ売れなかったって原作者が嘆いてた。アケコンまである!」


彼女は姫川さんが仕掛けたワナにかかった!


「それは姫川さんの私物ですよ」

わたしが説明する。


「姫川さんて誰⁉ 会ってみたい。ボクと気が合うかも」


「ボク⁉ 自分のことボクって呼んでるの?」


「ええ。流行らせたいんです」


「折笠さん。来ましたよ。ボクっ娘という絶滅危惧種が」わたしは折笠さんを仰いだ。


「待ちなさい。女子校に潜入した女装男子かもしれないでしょう」

折笠さんはお胸の下で腕を組んでいる。


「ボクのお股に余計なものはついてない。ボクはれっきとした女性だ」


「あなた、見かけない顔だけどコトジョの在校生?」


「いえ、チューボーですよ。どぶろく中学校です」


彼女の視線は折笠さんの制服が隆起するほどの豊満なお胸に釘づけ。目を丸くしている。


「どぶ中ね。わたしもどぶ中」


どぶろく中学校は地元の私立中学校だ。折笠さんは彼女の露骨な視線をスルーした。


「大けがしてるみたいだけど、交通事故にでもあったの?」


「眼帯はファッションです。朱雀の瞳を封印しているという設定です」


自分で設定って言っちゃった!


「ちなみに左腕には青龍を封印しています」

彼女は左腕の包帯を見せる。


「四聖獣ね。玄武と白虎は?」折笠さんはあごに手をあてる。


「詳しいっすね、パイセン。考えるの面倒くさくなっちゃって」


「パイセン? まあいいでしょう。そこは作りこみなさいよ。ぶれちゃいけないところなんだから。まだ名前を聞いてなかったわね」


「ボクの名前は黒咲ノア。ゲーマーさ」


次回へつづく

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