「ここがうちらの部室……の控え室」
九条さんに案内されて部活棟に移動する。歩くと床が軋む。木造建築の校舎だった。
「九条さんはなぜ格闘ゲームをするのですか」
村雨さんが上目遣いに質問を切りだす。
「ふむ。哲学的な質問ですね」九条さんは指ぬきグローブを顎にあてる。
「野球選手が野球をする理由と同じですわ。あたくしもeスポーツに魅入られた人間のひとり。そこにいる姫川さんのようにね」
九条さんは矢のような視線で姫川さんを射る。姫川さんをライバル視しているようだ。
姫川さんは涼しい顔。
「あたしなんて九条さんほどじゃないよ」
「ふふ……。ご冗談が好きなお方。あなたの魂は九九パーセントゲームでできているじゃありませんか」
意味深な九条さんの発言を姫川さんは否定も肯定もしなかった。
TVが設置してある茶道部控え室に案内される。かすかに抹茶の匂いがする。
「姫川さん、遅いっすよ」
「待ちくたびれたよ。お姫様」
控え室で待っていたのは鳳女学院茶道部二年生の七瀬
恋ちゃんはヘッドフォンを外した。なんという美少女。背が低くて、さらさらのショートヘアにビー玉のように光る瞳。透明感のある肌。そして心地よい高音の美声。女のわたしから見ても恋ちゃんはすごく可愛い。
「恋ちゃん、結婚して!」
姫川さんが恋ちゃんに抱きつこうとする。恋ちゃんはとびきり可愛らしいから、気持ちがちょっとわかるけど、この人の場合、冗談とも思えない。
「いやだよ。まったくお姫様はいつもこれだもん」
恋ちゃんは姫川さんのことをお姫様と呼んでいるみたい。
「わたくしというものがありながら……」
村雨さんが姫川さんの様子を見て爪を噛んだ。
ややこしいことになってるー!
「恋ちゃんはあたしたちのものです」
七瀬さんが恋ちゃんを抱き寄せる。
「ボクは誰のものでもないぞ。恋ちゃんは恋ちゃんのものだい!」
恋ちゃんは両腕を振って叫んだ。
「恋ちゃん、ボクッ娘なの⁉ 可愛い! 絶滅危惧種!」わたしは抱きつこうとした。
「絶滅危惧種って言うな!」恋ちゃんは顔を真っ赤にして怒った。
簡単な自己紹介が終わった。
部屋を一望して驚いた。巨大なコントローラーがある。
「それはなんですか?」
わたしがそれを指さすと姫川さんが答えた。
「アケコンだよ。アーケードコントローラー。ゲーセンと同じ操作ができる。見たことない? うちの部活にはないもんね」
九条さんたちはふだんアケコンで対戦しているらしい。わたしたち天文部はゲームハードの標準コントローラーでプレイしていた。姫川さんいわく、学校にアケコン持ってきたら部室でゲームしていることがバレちゃうからだそう。
これは手ごわそうだ。
「まず試合形式で対戦する。そのあとフリー対戦ね。三人対四人だけどハンデとしてはちょうどよいでしょう」
姫川さんがホワイトボードに対戦表をつくる。
先鋒 七瀬一葉 VS 村雨初音
次鋒 二ノ宮恋 VS 鳴海千尋
大将 九条沙織 VS 折笠詩乃
特別枠 姫川天音
※次回は対戦がはじまります。よろしくお願いいたします。