「突然だがあなたには格闘ゲームの英才教育を受けてもらう! もうあなたは逃げられない! これは決定事項よ!」
姫川さんはわたしこと鳴海千尋を指さした。
「えー‼ どうして‼ なんのために⁉」
「ごめんなさいね。びっくりしたでしょう。ヒメが言ってることはね。天文部としての活動の合間にちょっとだけゲームしようってことだから」
天文部副部長の折笠さんが部長である姫川さんの発言を取り繕う。
「格闘ゲームって、学校に許可は取っているんですか」
わたしは真面目に質問した。
「取ってるわけないじゃない。バレたら停学もんよ」
姫川さんはキャンディをかみ砕いた。
「ええー⁉」
「大丈夫。いままでもバレなかった。これからもバレなければいい」
「普段は天文部の活動をして、ひまなときにちょっとだけ楽しくゲームしてくれればいいの」
折笠さんが型ではめたような微笑で答える。だが、視線が笑っていない。彼女は罪悪感ゼロの悪魔的美少女だった。
「それでどうするんですかあ?」
わたしは慌てすぎてスロー再生のようになっている。
「……大会にでたりでなかったりするかもしれない」
姫川さんが聞き取れないくらいの小さな声で答える。
「目的は?」
「あたしが格ゲー好きだから。この学校にeスポーツ部を立ちあげたいの。今年一年間でメンバーを集めて実績をつくり来年eスポーツ部を発足する。天文部はその隠れ蓑」
「なんて不純な動機。まるで暴君です」
「いいでしょ。格ゲーなんてひとりでやっても楽しくないんだから」
「具体的には格闘ゲームの大会
ここぞとばかりに折笠さんが補足説明する。
「ちなみにGEBO(Game Event Battle Omega)とは一一月に行われる出版社主催の国内最大のゲーム大会」
「怪しい……。そんな大会聞いたことないです。いやです」
「そこをなんとか。鳴海様」
ふたりが合掌をしてわたしを拝み倒す。
わたしは騙し討ちにあったようで涙目になっていた。
部活見学のときからうそをついてわたしを入部させようとしていたのだ。
「あたしたちふたりは格闘ゲームが大好き。だけどこの学校にはeスポーツ部が存在しない。そこであたしは考えた。新しい部活を立ち上げるために必要なのは部員最低五名と活動実績。あと一年で部員五名集めてゲーム大会に出場して実績を残せばeスポーツ部を立ちあげられると。
この部に籍をおいて、ちょっとだけ大会にでてくれれば、あなたの学校生活を全力でサポートさせてもらうわ」
「サポート?」
わたしは洟をすすった。
「そう! 中間・期末テストの担当別過去問題を提供。問題教師や不良生徒に絡まれたときは全力で守ってあげる。そのほか、部室での快適な活動のためにあなたをサポートする。どう?」
「それなら……」
単純なわたしは説得に心を動かされてしまった。
ああ、どうしてわたしはこんなにお人よしなんだろう。
そのときノックとともに男性の声がした。
「おれだ。入るぞ」
誰だろう?
女子校天文部部室に男性の声が響いた。