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第4話 はじめてのモンスター戦

「わあ……綺麗な景色……!」


VRワールドにログインした陽向と結衣は、街の外に広がる草原へとやってきた。

見渡す限りの緑が広がっており、遠くには森や山が見える。


「ここがゲームの世界だなんて信じられない! ドラゴンとか飛んでそうなくらい、神秘的だね」


「ドラゴンがこんな序盤にいるわけないだろう。冗談よしてくれ」



とはいえ、結衣が言いたいとこはよくわかる。

現実世界の山に行ったことはあったが、こんなに緑鮮やかで色彩豊かな光景は見たことが無かった。


遠くのほうの草原で、青色の小さな物体が跳ねている。



「あれはスライムか。ファンタジーなのはわかるけど、こんな綺麗な景色は見たことないな」


「そうだね……現実よりも綺麗に感じるね」



結衣の言っている意味は、陽向も理解できた。


VRワールドでは現実と同じように、食事や睡眠を取ることができる。

景色だって見たままだし、天候の違いなどもない。

望めば恋人を作ることや、ゲーム内で結婚をして、夫婦として夜を共にすることだってできる。



だからこそ仮想空間が『もう一つの現実』と呼ばれるのだ。



だけどここは、そんなゲームの中だとは思えないほど美しい。


そんな感動を胸に抱きながら、陽向と結衣は街の外に広がる草原を歩き続けた。

そして、先ほど遠くから見つけたスライムに遭遇する。



「ねえ陽向、ちょっと戦ってみようよ!」


「いや、それはさすがに……」


「えー、なんで?」


不思議そうに首をかしげる結衣に、陽向は説明する。


「あのスライムはノンアクティブモンスターだから攻撃しない限り襲って来ないんだ」


ノンアクティブとは、こちらから手を出さなければ戦闘を仕掛けてこないモンスターのことだ。


この草原にはノンアクティブのスライムや、草花のモンスターしか見当たらない。

だが結衣は、陽向が何を心配しているのかわからないようだ。



「攻撃しない限り襲ってこないのなら大丈夫でしょ?」


「ダメだって! 初心者プレイヤーが下手に攻撃を仕掛けたら、アクティブ化して襲ってくるんだぞ!」


「それってつまり……逆に考えれば……」



結衣がニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

そんな幼馴染の姿を見て、陽向は嫌な予感を覚えるのだった。



「やっぱり、こうなったか」


案の定、結衣がスライムを攻撃してしまった。

そのせいで、スライムがアクティブ化してしまったのだ。


怒ったように昂るスライムは、攻撃した結衣に敵意を向けている。



「やばっ……」


まだ結衣には、『Arcadia Fantasy Online』での戦闘方法を教えてない。

このままだと、一方的にスライムに蹂躙されてしまう。


すぐさま陽向は草原を駆けだすと、応戦するために腰の鞘から剣を抜き払った。



「ハアッ!」



剣を斬り上げ、そのまま振り下ろす。

その二連撃の攻撃を喰らったスライムは、光の粒子となって消え去った。



「ふう……なんとかなったな」



そんな陽向を、なぜか結衣がジト目で見つめていた。



「ど、どうした? いまの戦闘でどこかダメージでも負ったわけじゃないだろう?」



心配して声をかけた陽向に、結衣は唇をとがらせながら答えた。



「ねえ、陽向……あたしだって、スライム倒してみたかった」


「……え?」


「せっかく男性キャラになってるんだから、あたしも格好よく戦ってみたい」


結衣のそんな言葉を聞いて、陽向はため息を漏らした。


「あのな、結衣……」


そして、幼馴染を諭すために口を開くが──。



『スキル【剣術】を習得しました』



そんなシステムメッセージが目の前に現れた。


「ちょうどいい。これを見てくれ」


「ええと、スキル【剣術】を習得したって書いてあるけど」


「この『Arcadia Fantasy Online』には、普通のMMORPGみたいなレベルという概念がない。代わりにあるのが、このスキルだ」


「あぁ、それ、キャラメイクの時に書いてあったよ」


「各自の職業によって、取得できるスキルが変わって来るんだ。オレは【聖剣士】だから、こうやって剣でモンスターを倒すと、新しいスキルを覚えられる」


「なるほど。つまり今の戦闘で、陽向は【剣術】の新しいスキルを覚えたってことね?」


「ああ。そうだ。他にもユニークスキルっていう特定条件をクリアしないと取得できないレアスキルなんかもあるらしい」



そうやってスキルを増やして、キャラクターを強くする。

その結果、職業は強化され、転職することもできるのだという。



「スキルを取得するために最も必要なのが、プレイヤーによるプレイングだ。まあこれは、完全ダイブ型のVRゲームのだいご味でもあるけど」


「なにそれ、めっちゃ面白そう!」


結衣が目を輝かせながら、食いついてきた。

完全ダイブ型のゲームをするのが初めてな結衣は、体を動かすのが好きなせいもあって早く試してみたいといった様子だ。


もしも結衣が犬耳の獣人キャラだったら、きっと今頃は尻尾が大きく揺れ動いていたことだろう。



「ねえ、もっとモンスターと戦ってみようよ!」


結衣はそう言うと、陽向の返事を待つことなく駆けだした。


「あ、おい……ったく」



結衣が戦闘を楽しみたい気持ちはわかる。

だが、まだこの『Arcadia Fantasy Online』のシステムについてすべて説明したわけではない。


だから、慌てて陽向も後を追いかけるのだった。




そうして時は過ぎ、いつの間にかリアルの時間で深夜になった。



「もう深夜の3時だなんて信じられない。ゲームの空はこんなに明るいのに」


「ゲーム内と現実世界の時間の流れが違う設定になっているからな」



今夜、陽向の家族は留守にしている。


だから邪魔が入らなかったのだが、それでもそろそろ現実に戻ったほうが良いだろう。


現実世界でもベッドでVRメットを被って横になっているとはいえ、少しは意識してしまう。

こんな時間まで結衣と一緒にいるのは、それこそ小学生以来だ。



『始まりの広場』に戻ってきた二人は、街の宿屋に入る。


そして二人して、ベッドで横になった。



「それじゃ、ログアウトするぞ」


そうして二人の意識は、現実世界へと戻った。




ログアウトしてVRメットを外す。

すると、なぜか背中にまで伸びる長い髪が指に当たった。



「あれ……髪の毛?」


ゲームから戻ってきたのに、髪が長いまま。

『Arcadia Fantasy Online』内では、結衣のキャラになっていたため、女の長い髪になっていた。


だがログアウトした今は、元通りの性別に戻っているはずだ。


なのになぜ?


そんな疑問を抱いた瞬間に、信じられないものが目に入った。



「あれ、なんで目の前にオレがいるんだ……?」



寝室には、こんなに大きな鏡はないはず。

視界に入っている陽向オレ、こちらを見ながら驚いたように指をさす。



「なんであたしが、もう一人いるわけ!?」



自分で口を開いていないのに、陽向オレの体が喋っている。

つまり、目の前に写っている自分は、自分ではない。



そこで、二人とも気が付いた。



「もしかして」


「あたしたち」



結衣と陽向は、お互いの姿を見て驚愕する。



「「こっちでも入れ替わってる!?」」

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