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Arcadia Fantasy Online~もしもゲームの中で幼馴染と入れ替わったら
南天緋色
ゲームVRゲーム
2024年08月20日
公開日
24,906文字
連載中
黒沢陽向は、幼馴染の女の子である白野結衣と最新の完全ダイブ型VRMMORPG「Arcadia Fantasy Online」を始めようとしていた。
しかしゲーム機を起動した瞬間、突如の落雷に見舞われる。

陽向がゲームを開始すると、なぜか女キャラになっていた。
同様に、結衣は男キャラになっている。
陽向と結衣のアカウントが、入れ替わってしまったのだ。

お互いのアカウントが入れ替わったせいで、男女の性別を入れ替えたままゲームを進める二人。
そしてゲームをログアウトすると、異変に気が付く。

「オレたち、入れ替わってる……?」

なんと、ゲームの世界だけでなく、現実世界でも二人の体が入れ替わっていたのだ。

陽向は結衣として、結衣は陽向として、本人のフリをしながら生活しなければならなくなった。
男女の体が入れ替わったまま、ゲームの中だけでなく現実世界でも時間が進む。

ゲームと現実世界、二つの世界での二重の入れ替わり生活が始まる!

第1話 突然の入れ替わり

「ねえ、陽向ひなた。本当にこれで大丈夫なの?」


隣にいる少女の声が、緊張と期待で少し震えていた。


彼女の名前は、白野しらの結衣ゆい

陽向の幼馴染であり、中学のクラスメイトでもある。


学校でも可愛いと評判の女の子が、自分の部屋にいる。

そのことに不思議な感覚がするのと同時に、懐かしくも感じてしまった。


陽向は幼馴染の不安そうな表情を見て、優しく微笑んだ。


「大丈夫だよ、結衣。オレが全部セットアップしたから。君はただVRメットを被ってリラックスするだけでいいんだ」


二人は陽向の部屋で、話題の新作VRMMORPG『Arcadia Fantasy Online』を始めようとしていた。


完全ダイブ型のこのゲームは、プレイヤーの意識を丸ごとバーチャル世界に没入させる画期的なシステムだ。

発売前から大きな話題を呼んでいる。



超大作ということもあり陽向は最初、クラスメイトの男友達とプレイするつもりだった。


しかしそんな時に、意外なことに結衣が一緒にゲームをやろうと誘ってきたのだ。



小学生の頃は、陽向は結衣とよく自宅でゲームをして遊んでいた。

幼稚園からの幼馴染ということもあり、毎日のように二人で一緒に過ごした。



でも、中学に入ってからは、めっきり交流がなくなった。


男女の性差が謙虚に表れる年頃の二人にとって、性別を超えて友達のままでいるのは難しいものだった。

クラスメイトから執拗にからかわれ、いつの間にか疎遠になっていた。


だから陽向がこうやって自分の部屋に結衣を招くのは、小学校以来だ。



これも超人気ゲームの『Arcadia Fantasy Online』のおかげだ。


結衣は昔からゲームが好きだったから、やりたくて仕方なかったのだろう。



そして二人を引き合わせたのには、もう一つ理由がある。


それは、陽向も結衣も、もうすぐ中学を卒業してしまうからだ。

高校は別々の学校になる予定である。


このままだと、二人とも疎遠になってしまう。


そんなの、嫌だ!


お互いがそう思ったのだろう。

自然と、二人でゲームを始めることになったのだ。



「プレイヤー名の設定はもう終わってるから、キャラメイクをしたら始まりの広場で集合しよう」


「うん、わかった」


「じゃあ、そろそろ始めよるぞ」


結衣が深呼吸をして横たわると、陽向も隣に寝転んだ。


窓の外から、激しい雨音が聞こえてくる。

春にしては珍しく、遠くで雷の音が聞こえてきた。



「よし、行くぞ。3、2、1……」



陽向がカウントダウンを始めた瞬間、突如轟音が響き渡った。


雷鳴だった。


かなり近くに落ちたのだろう、一瞬、家の電気が落ちたのがわかる。



窓の外が一瞬まばゆい光に包まれ、同時に二人の意識が闇に沈んでいった──。




陽向が目を覚ました時、そこはゲームの中だった。



雷で停電したら、ゲームをやり直す必要があったが、大丈夫なのようだった。

無事にゲームを始めることができたようだと、陽向は安堵する。


たしか説明書通りなら、キャラメイクをするための女神の広間にいるはずだ。


ここで、自分のキャラクターを自由に作ることができる。


しかし、何かがおかしい。

自分の体に、明らかに違和感があった。



「えっ……これ、オレの体?」


驚いて自分の姿を確認すると、そこにあったのは細身の女性の体だった。

長い黒髪が背中を覆い、胸の膨らみが視界に入る。



「どういうことだ……? オレのキャラクターは男のはずなのに」



まさか自分が女性キャラになるとは思わなかった。


なにせ、プレイヤーの性別は、実際の性別と同じになるよう設計されている。

そのため、性別を変更することは不可能なはずなのだ。


混乱する陽向の耳に、システムの機械的な声が響いた。



【キャラクターの初期設定、及びプレイヤー名『ユイ』を認証しました】



「ちょっと待った。ユイだって!?」


それは、結衣がいつもゲーム内で使っていた名前だ。


さっき陽向が、結衣のVRメットを通してゲーム内のネーム設定をしたのだから間違いない。


「もしかしてバグか……?」


結衣のアカウントに、なぜか陽向がログインしてしまっている。

すぐさまログアウトをしてみようと試みるが、キャラメイク中はできないらしくボタンは灰色のままだった。


「どうやら、ここでの取り消しはできないようだな」


とはいえ、アカウント設定を間違えたとは思えない。

さっき雷が落ちた時に、ゲームがおかしくなっているのかもしれない。


それならこのまま進めば、バグが治ってきっと元に戻るだろう。

最悪、運営に問い合わせすればいい。



【生体スキャン完了。職業適性診断を開始します】



突如、陽向の体が光に包まれた。暖かな感覚が全身を巡り、何かが決まっていく感覚。



【診断完了。あなたの職業は『聖剣士』です。剣術と回復魔法を操る特殊職です】



陽向は驚いた。

聖剣士は珍しいレアジョブだと聞いていた。



しかし、それよりも気になるのは自分の姿だ。

見た目は、姫騎士といった感じだろうか。


ブロンドの髪に、可愛らしい整った顔。

胸もそれなりにあるようで、大きく膨らんでいる。


腰のくびれも引き締まっており、スカートから伸びているふとももは柔らかそうだ。



「ジョブが決まっても、まだ女のままなのか……」



陽向は呟きながら、胸元に目を向けた。

プレートアーマーの下から、ふくらみが明確に確認できる。



「見た目は女だけど、実は男って可能性もあるからな……一応、確認だけしてみよう」



恐る恐る手を伸ばし、胸に触れてみる。

柔らかな感触と同時に、触られる感覚も伝わってきた。



「うわ……これ、本当にオレの体なのか?」



仮想空間だというのに、胸の柔らかい感触が肌から伝わってくる。

現代のVRゲームは凄いと、改めて関心させられてしまう。



「揉む感触だけじゃなく、揉まれてる感触もある……てことは、本当にオレは女キャラになっているのか?」


まるで本物の胸のよう。

偽物でもパッドでもない。

女性特有の柔らかい膨らみが、胸部に付いている。



陽向は自分の新しい姿に戸惑いながらも、好奇心に駆られて慎重に体の変化を確認し始めた。


まず、長くなった髪に触れてみる。

さらさらとした感触が指先に伝わってきた。


次に、顔を手で触ってみた。

柔らかな頬、小さな鼻、繊細な唇。


全てが自分のものでありながら、まるで別人のようだ。


肩から腕にかけても、筋肉質だった部分が滑らかな曲線に変わっている。

腰のくびれも以前より深くなっており、ほっそりとした綺麗なラインができている。


そしてスカートをめくり上げると、長く伸びた脚が露わになった。

ふくらはぎのラインや、膝の形も女性らしい柔らかさを帯びている。


陽向は首を傾げながら、髪を軽く振ってみた。

そうするとふわりと髪が宙に舞い、甘い香りが漂ってくる。


全てが今までの自分とは違っていた。



「これが女の体……まあ本物じゃなくて、ゲームのアバターなんだけど」



全身を確認し終えた陽向は、用意されていた鏡に映る自分の姿を見つめた。


そこには、まるで絵に描いたような美しい少女の姿があった。



「本当に女になったみたいだな……」



陽向は複雑な表情を浮かべながら、苦笑する。


だが、鏡の中の美少女はかわいらしく微笑んでいた。

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