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第12話 作戦開始

「お頭!!」


 中に入ると、そこでは十数人の男たちが大部屋の中で食事をしていた。

 村から盗ってきたであろう机や椅子を並べて座り、同じく村から盗って来たであろう食器を使ってさも当たり前のように食事をする男たちに、思わず眉を顰めそうになる。


 そして男が声をかけた、一番奥にどっしりと座る大柄な男に、私も視線を向けた。

 あれが、この賊たちの頭か……。

 顔のいたる所に大きな傷がついていて、服にも破れが多く見られる。

 それだけでこの人がこれまでどのような環境下で過ごしてきたのかがわかる。


「何だ? その女どもは──……っ!? その……髪は……っ!!」

 私を見るなりに、頭は目を見開いて驚きの表情を浮かべた。


 え、何?

 もしかして、私の美貌にやられた?


「村長が連れて来たんでさぁ。村の食料が底をついて食料を都へ調達しに行っているので、今日一日村に行かないでほしい、と。そのかわり、この女たちと酒をよこして来ました。まぁ、今は食料はたっぷりあるし、そろそろ女でも──と思って承諾しました。特にこの銀髪は、お頭のお好みの髪色ですし」


「ほぉ……? ふぅむ……そうだな。ちょうど女に飢えてたところだ。今日はこれで楽しむとするか。──喜べお前たち!! 女と酒だぁっ!!」


 頭の声に、他の賊たちから「おぉぉぉおおおっ!!」と口々に歓声が上がる。


 なるほど。

 今ので大体の立場関係が分かった気がする。


 戸を叩いてすぐに出てきて対応したから下っ端かと思っていたけれど、物事を確認なく決めても頭から咎められることが無いということは、あの男が二番手。

 こういう組織は頭が一人、その右腕が一人。

 あとは下っ端、ということが多い。

 力を持つのはこの二人、か。

 下っ端は15名ほど。


 数的にはそう大したことはないけれど、そのどれもが激戦を潜り抜けてきた猛者のような体格と風貌で、この人数であっても戦闘に慣れない村の人達には成すすべはなかっただろうと思う。

 以前は戦士か何かだったのかしら?

 そんな冷静な分析をしていると、ふと、頭のギラリとした目と私の目が合わさった。


「おい銀髪の貴様。名は?」

「へ? あ、え、えーっと……蘭……蘭花ランファと申します」

 突然に名を聞かれて答えると、頭は少し考えるそぶりを見せてから、ふむ、と頷いた。


「よし。蘭花。貴様は俺の酌をしろ。夜のお楽しみは、その後だ。さぁ皆!! 楽しめ!!」

「おぉぉおおおおおおお!!」


 ……うそだろ……。

 色気のある方が先なんじゃなかったのか。景天様。


***


「がっはっはっはっはっはっ!!!!」

 男たちの愉快な笑い声が響き渡る。

 なんとも酒臭いことだ。

 それに下品な笑い。

 思わず笑顔が歪みそうになるのを必死でこらえる。


「どうぞ、旦那様」

「おぉ、気が利くじゃねぇか」


 美しい所作で下っ端たちに酒を注いでまわる永寿様。

 さりげに膝やら腕やらにしなりと触れていくのも忘れない。


 て……手慣れてらっしゃる……!!

 対して私の方は────。


「うぉぁっ!? お前、これで溢すの何回目だ!!」

「ご、ごめんなさいぃぃいいっ!!」


 そう。頭専属になった私は、盛大に酒をこぼしまくっていた。

 今までお酌なんてすることなかったから、加減がわからない……。


「はぁ……まったく……。顔だけか」

「うぐっ……」

「こんな簡単な酌すらもできんとはな……」

「ぐぐぐっ……」


 何も言い返せない……!!

 悔しい……!!


「ふん。まぁいい。おいお前ら!! 俺は奥の準備をしてくる。この女には指一本触れるんじゃねぇぞ!!」

 そう言って頭は奥にあるこの小屋ただ一つの扉の中へと入っていった。


 準備って……一体何なんだろう?

 あそこは何の部屋?

 不思議に首をかしげる私に、最初に対応した二番手の賊がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら言った。


「へっへっへ。あれは頭専用の寝所だよ」

「寝所?」

「あぁ。今夜はお前と頭の寝所、だがな」


 そういやらしい笑みを深くした男に、鳥肌がぷつぷつと全身に出ていく。

 ようするに私はあの部屋で────食われる……!?


「蘭花……」

 心配そうな表情で永寿様が私の肩に手を添える。

 だけどそうか。これは……演技だ。

 永寿様は完璧に妹を心配する姉という役を演じている。

 ということは──。


「姉様……っ」

 私は俯き、永寿様に泣きつくように、その見た目に反してがっちりとした胸板に顔を埋めた。

 はたから見れば可哀想な妹を姉が心配して慰めるような図だ。


 だけど────。

「大丈夫ですか?」

 私にしか聞こえないような小さな声が耳をかすめる。


「はい。なんとか……します」

「……先ほど、外の食糧庫に追加の食べ物を取りに行った時、内部の様子を書いた紙を外に落としておきました。今頃猫々《マオマオ》がくわえて、景天様のもとに届けているでしょう」

「猫々が?」

 老師のカラスのはずなのに、なぜここに?

「えぇ。老師様が景天様に託されたのです。蘭の傍に居させてやってほしい、と」

「老師……」

 きっと慣れない場所にたった一人で赴く私を心配してくれたのだろう。

 血の繋がりはなくとも、過ごしてきた時間が家族にしてくれた。そんな風に感じて、私の心が少しだけ軽くなった。


「蘭。景天様が兵を率いて来るのも時間の問題かと思います。どうか、それまで話を繋いで、無事でいてください」

「は、はい」


 話題には困るけれど、仕方がない。

 背に腹は代えられない。


「蘭花!!」

 そうこうしているうちに、頭が部屋から出てきて私を呼んだ。

「来い!! おいお前ら!! 朝まで部屋に入るんじゃねぇぞ!!」

「へいっ!!」


 そして私は、心配そうに見つめる永寿さんの視線を背に、頭の待つ部屋へと足を進めた。




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