翌朝――
「フワアァアアア……」
私はカゴの中に置かれたクッションの上で何度目かの欠伸をした。
「どうしたんだい? ミルク。今日は随分眠そうだね?」
キャンバスに向かって私の絵を描いているクロードが声を掛けてきた。
「ニャアンニャンニャンニャアアンニャニャニャン」
(それはそうよ。何しろ真夜中に魔法使いが尋ねてきたんだから)
ニャアニャア鳴きながらクロードに返事をした。
「猫だから真夜中に集会にでも行ったんだね? 魔女の集まりも真夜中と言われているしね。ひょっとしてミルクは魔女の使い魔だったのかな?」
「ニャニャン!? ニャンニャンニャンニャン!」
(何ですって!? 私は魔法使いの使い魔じゃないからね!)
魔法使いに自分の使い魔にならないか、声を掛けられたことを思い出し、全力否定する私。しかし、肝心のクロードは私の話を理解出来ていない。
「後は最後の仕上げだけだな。ん……あれ? しまった……。絵の具が足りなかったみたいだ。ちょっとアトリエに取りに行ってこよう」
その言葉に私の耳がピクンと動いた。
え? アトリエ? そんなものまであるの? どんな部屋なのだろう? これは行ってみなければ! 何しろ今の私は好奇心旺盛の猫なのだから!
「それじゃミルク。僕はアトリエに絵の具を取りに行ってくるから、ここで大人しくま……」
「ニャア〜ン!」
クロードの言葉が言い終わる前に私はヒラリと床に降りた。
そしてニャンニャン鳴きながらクロードの足元に駆け寄り、身体を擦り寄せておねだり攻撃をした。
「ニャア〜ンニャン? ニャニャニャン?」
(ねぇクロード? 私も連れてって?)
すると、今回は気持ちが通じたようである。
「どうしたんだい? ミルク。ひょっとして一緒に行きたいのかい?」
「ニャン! ニャニャン!」
(ええ! その通りよ!)
「そっか。それじゃ一緒に行こうか?」
「ニャン!」
(ええ!)
頷くと、クロードは私を抱き上げて部屋を出た。
「ニャンニャンニャーン」
私を抱きかかえて廊下を歩くクロード。最近彼の方から積極的に私を抱きかかえてくれるから気分が良い。
「本当にアビーが話していたとおりだな。御機嫌だと歌を歌うように鳴くんだから」
そして私の頭を撫でてくるクロード。その気持ちよさに思わず喉がゴロゴロ鳴ってしまう。
うん、魔法使いは早く人間に戻るように説得してきているけど、私としてはもうこのまま猫でもいいかな? サファイアのお父さんは気の毒だと思うけど、私はサファイアではなく、彼女の姿をした全くの偽物なのだから。
この際、魔法使いに責任を取ってもらって偉大な魔法で自分をサファイアの姿に変えてなりきって貰うのもあるかもしれない。
そんなふうに思えてしまうほど、私は今の生活に満足しきっていたのだ。
しかし、なかなか人生は容易にいかないもの。
この後事件が起こるとは、私も……クロードだって予想などしていなかっただろうから――