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3-13 私は猫である

 クロードと同じ部屋に暮らすようになってからは、さらに私の生活はグレードアップした。


 クロードは殆ど自室から出ることはない。朝起きて、朝食は自分の部屋で取る。そして私も同じ部屋で食事を摂るようになったのだけれど……まるで私の待遇がVIP並なのだ。

 何しろこの私が王族たちの使用している黄金の食器からミルクや大好物なチーズを頂いちゃったりしているのだから。


日本で暮らしてた時は100円均一ショップのプラ食器を使っていた私。こんな身に余る贅沢、まるで夢のようだ。



 朝食後、天気が良ければクロードは1人で庭を散策する。これはどうやら主治医からの提案らしい。


 恐らく私とクロードが奇跡の出会い? を果たしたのも、彼が主治医からの教えを忠実に守っていたからだろう。彼の主治医と真面目なクロードに感謝したい。

 何しろ両生類から、ついに哺乳類へ劇的進化を遂げることが出来たのもクロードのお陰なのだから。



 散歩の後は、いよいよクロードの本業である画家の仕事が始まる。



「ミルク、眠ってもいいから大人しくしていてくれよ?」


 カゴの中に置かれたクッションに横たわる私をクロードは真剣に見つめながらキャンバスに向かっている。


「ニャニャン。ニャンニャンニャンニャーン」

(分かってるわよ。私はそんじょそこらの猫じゃないものねー」


 フフフ……。イケメンからじっと見つめられるのも悪くないわね。始めの頃は見つめられるだけで緊張していたものの、今ではその視線が心地よく感じられる。


 ひょっとして私は女王様気質? だったのだろうか?


「ニャアア〜ン……」

(ふわあああ〜……)


 それにしても、ふかふかクッションの上にいると何故こんなに眠くなってしまうのかしら?


 その時……。


「ニャニャンッ!? ニャーンニャン!」

(おお!? あれはなにかしら!)


 何と少し開いていた窓から、1匹の黄色い蝶がひらひらと部屋の中に入ってきたのだ。


「え? 蝶?珍 しいなぁ……」


 筆を動かしながらクロードは私の絵を描き続けている。


「ニャ〜ン……」

(う〜ん……)


 何故か気付けば私は、黄色い蝶の姿を必死で目で追いかけていた。

 駄目だ、気にしてはいけない……。そう、相手は単なるチョウチョなのだ。そのへんのお花畑でひらひらと飛んでお花の密を吸っているチョウチョ……。


 それなのに、何故! 今の私はあの蝶が気になってたまらないのだろう。

 目を見開いて、視線だけで蝶を追い続ける私。蝶にばかり気持ちが向いてしまう。


 今はクロードのモデルをするという大事なお役目の時間なのに、髭も耳もピクピク動いてしまう。


「ミルク? どうかしたのかい?」


 キャンバスに向かうクロードも私の異変に気づいたのか声を掛かけてきた。


 そして、ついに……私の目の前を黄色い蝶が通過した時……。


「ニャン!!」


とうとう我慢できず、私は黄色い蝶を捕まえるべく跳躍した。


「うわああああ!?ミ、ミルクッ!?」


 その後――


 慌てふためくクロードを尻目に、蝶が部屋から逃げ出すまで私と蝶の追いかけっ子は続くのだった――

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