「ニャンニャンニャ~ン」
アビーのエプロンポケットの中で私は上機嫌で歌を歌っていた。
「フフフ……可愛い鳴き声ね。でもクロード様のお部屋では静かにしていてね? あの方は猫アレルギーだから、見つかったら追い出されてしまうかもしれないから」
両手に掃除用具を下げたアビーが私に目配せする。
「ニャン?」
(そうなの?)
あの優しいクロードがそんなことするとは思えないけどなぁ……。
赤いカーペットを敷き詰めた廊下を進んでいると、正面から1人のフットマンが歩いて来た。そしてアビーを見ると、途端に笑顔になる。
「やぁ、アビー。クロード様のお部屋の掃除に行くのかい?」
「ええ、そうよ。ところでジャック。クロード様はお部屋なの?」
「そうだよ、今は部屋で絵を描いているよ。今日は体調が良さそうだったなぁ。何しろ絵描きの仕事をされているのだから」
ジャックと呼ばれたフットマンの話で分かった。どうやらクロードはこの離宮で隠居生活? のような暮らしをしているけれども、画家として仕事をしているということが。
多分、クロードは身体が弱いから王政の仕事に携われないのだろうな……。
気の毒に。
「そう。ならクロード様はお部屋にいらっしゃるのね?」
「ああ。ところでアビー。今度の休暇日は久々に2人で久しぶりに町に遊びに行かないか? デートしようよ」
ジャックはスルリとアビーの肩に腕を回すと耳元で囁いて来た。
ちょ、ちょっと! 私のアビーに何するのよ!
思わず、怒りで背中の毛を逆立てる私。
「やだ、こんなところでやめてよ。誰かが来たらどうするの?」
すると、まんざらでもない様子のアビー。嘘!? ひょっとして……2人は恋人どうしだったの!?
「別にいいじゃないか」
そしてジャックは顔を近付けてアビーの唇にキスしようとし……。
「フーッ!!」
(やめなさいよ!!)
私は威嚇の声をあげた。勝手に目の前で私のアビーにキスされてなるものか。
「あら? ミルクちゃん」
アビーがポケットの中にいる私に笑顔で声を掛ける一方、私の姿に怯えるジャック。
「うわあああ!!ね、猫!?」
「フーッ! フーッ!! フーウッフウッ!?」
(そうよ、ずっといたわよ!! 何か文句ある!?)
ジャックは私を見ながら、引き気味になっている。
「な、何だかこの猫……随分俺に威嚇してくるみたいだけど……ま、まさかこの猫を連れてクロード様のお部屋に行くつもりか?」
「ええ、そうよ。クロード様からは離れて掃除するから大丈夫でしょう? ポケットから出ないように言い聞かせればちゃんと言う事きいてくれるはずよ。とても賢い、いい子だから」
アビーが私の頭を撫でる。そして自然にゴロゴロと鳴る私の喉。
「あ、それじゃもしかしてこの猫か? メイド仲間たちと交互で世話をしている猫は。確か以前クロード様が話していたっけ。突然バルコニーに真っ白い猫が現れたって。不思議なことにその猫を触ってもアレルギー喘息の症状が現れないと話されていたな」
何!?
クロードは私には喘息の症状が現れなかったですって!?
その話に私は耳をぴくぴくさせた――