日差しがポカポカ差し込む窓際で、私はクッションの上で丸くなってゴロゴロしていた。
「う〜ん……それにしても困ったわね……」
子猫の姿になってからの私は善行を尽くすどころか、メイドさん達に可愛がって貰ってばかりいる。
こちらか何かしてあげることがないのだ。このままではずっと呪いが解けずに猫の姿のままで人生の幕を閉じてしまうことになりかねない。
だけど昨夜サファイアの部屋で聞いた、父親の悲しげな言葉が耳に残っている。
娘を思い、嘆き悲しんでいる声を聞いていると気の毒になってくる。
「元の姿に戻ってあげたいけれど、なかなか思うようにはいかないわね……」
おまけに肝心のクロードにはあの日以来、会えていない。まぁ、猫アレルギーの彼にしてみれば私のことは到底受け入れることが出来ないだろう。
あれからクロードは喘息の発作を起こしていないだろうか?
「はぁ……本当にどうすればいいのかしら……」
思わずため息を付いた時……。
「あら? どうしたのかしら? ミルクちゃん」
そこへ本日私のお世話係担当のアビーが部屋に入ってきた。彼女はクロードの部屋の掃除係だから、1番彼に接触の機会がある。
(アビー! クロードは元気にしているの?)
言葉が通じないのは分かりきっていたけれども、私はニャンニャン鳴きながら彼女の元へ駆け寄って足元にすり寄った。
「フフフ……本当に可愛いわね、ミルクちゃん。まだここでお留守番していてね? これからクロード様のお部屋のお掃除に行ってくるから」
アビーは私を抱き上げて、頭を撫でた。
(本当? クロードに会いにいくの? 私も一緒に行きたい!)
喉をゴロゴロさせながら、アビーの腕にスリスリしてみた。
「あ〜ん、もう! 本当に可愛いんだから。そんなことされると離れがたくなっちゃうじゃないの」
「ニャンニャン? ニャンニャ〜ンニャニャン」
(そうでしょう? だからクロードの部屋につれてってよ)
「ごめんね。後でお昼ごはんを持ってきてあげるから、大人しくしていてね?」
そしてアビーは私を床に下ろしてしまった。
な、何っ!? この「おねだり攻撃」が通じないとは!
けれど私にも意地がある。このまま引き下がってなるものか!
「ニャア〜ン! ニャニャン!」
(お願い! 連れて行ってよ!)
私は必死でアビーによじ登り、エプロンのポケットに収まった。
「まぁ! ミルクちゃん」
「ニャン?」
(何?)
「仕方ないわね……それじゃ今から一緒にクロード様のお部屋に行きましょうか? だけど、絶対にポケットから出てこないでね?」
「ニャーン」
私は甘えた声で返事をした。
やった! ついに……クロードに会うことが出来る!
嬉しさのあまり、私はアビーのポケットの中でゴロゴロと喉を鳴らした――