「え……? それって……」
「つまり、僕が言いたいことは一つだよ。サファイアは人間に戻るつもりはあるのかい?」
「そんなの当然じゃない。人間の姿に戻りたいわよ」
「本当にそうなのかなぁ……? 最近のサファイアを見ていると、随分猫の生活を満喫しているように見えるんだよね? もう今の姿になって1週間になるじゃないか」
首をひねる魔法使い。
え? ちょっと待て。それって……。
「ねぇ……一つ聞きたいことがあるんだけど……ひょっとして、貴方私のこと見張っていた?」
「いや? 別に見張ってはいなかったけど……陰から見守っていたかなぁ? 初めて君が猫になった日から」
しれっと答える魔法使いに怒りが湧いてくる。
「はぁあああっ!? ちょ、ちょっと待ってよ! それじゃもしかして、私がフクロウからいきなり猫の姿になってバルコニーに置き去りにされていたところを見ていたってわけ!?」
「うん、そうだよ。一応呪いを掛けた僕には君を見守る気味があるからね。でもまさか猫になれるとは思わなかったよ。クロード王子は余程君に感謝したんだろうね」
腕組みしながらウンウンと頷く魔法使い。
「何言ってるのよ! こっちはね、人間に戻れるとばかり思っていたのよ! それなのに、未だに猫の姿じゃないの! それに、私がバルコニーに閉じ込められた時どう思ったのよ?!」
「うん、困ったことになったなぁと思ったよ。だけど、あのクロード王子が恩人……いや、恩鳥にそんな嫌がらせするはずないだろうし……様子を見ようと思ったんだよ」
「あ……そう。そういうことね……」
あまり釈然としないが、結果私はすぐにメイドさんに助けられたのだから良しとしよう。
「それで、さっきの話に戻るけど君はずっと猫のままでいいのかい? ここ1週間君の様子を観察していたけど、どう見ても人の役に立つどころか思いっきりお世話されてるよね? そんなことでいいのかい?」
何だか妙に私を非難するような言い方をする魔法使い。
「それは確かに……快適な猫生活をおくっていたことは否定しないけど……でもね! この身体に呪いを掛けた貴方に言われたくないわよ!」
「だから、それは僕の意思じゃなくて王子の命令だったからやむを得なかったんだよ。だけど以前にも言っただろう? 君は1年以内に呪いを解かなければ、ずっと今の姿のまま一生を終えることになるって。本当は僕だって、こんな呪い掛けるの不本意だったんだから」
何故か魔法使いは困った素振りで私に事情を説明する。
「だったら断れば良かったでしょ! 偉大な魔法使いのくせに!」
けれど、そこまで言って私は何か引っかかった。
あれ? そう言えば以前見た夢の中で……。
「落ち着いてよ、サファイア。人には止むにやまれない事情があるんだから。それよりも今夜僕がここに来たのは……」
そこまで話をしていた魔法使いが不意に口を閉ざした。
「え? 何? どうしたの?」
「まずい……僕達の騒ぎ声で誰か来たみたいだ」
「そ、そうなの?」
「とりあえず、隠れよう!」
魔法使いは私を横抱きに抱えると、クローゼットの中に入り扉を閉めた。
「い、一体誰が……」
「しっ!」
魔法使いは私の口を塞ぐと、クローゼットの隙間から様子を伺っている。
そして……
キィ〜……
扉の開く音が聞こえて、次に男の人の声が聞こえてきた。
「今、この部屋で声が聞こえた気がしたが……まさかサファイア? お前なのか? 家に帰ってきたのかい?」
その言葉に緊張した私は、無意識に猫の毛を逆立てていた――