メイドさんにストンと地面に下ろしてもらった私は辺りをキョロキョロ見渡した。
きれいに刈り込まれた芝生の上には洗濯物を干すロープが張られ、大きなシーツが風になびいている。
ひょっとして、ここは洗濯物を干す場所なのかな?
首を傾げた時――
「キャーッ! どうしたの? その子猫!」
「かわいい〜っ!」
「え? 猫? どこっ?!」
突然女の人たちの声が何処からともなく聞こえ、洗濯物の陰から何人ものメイドさん達が姿を現した。
その数……う〜ん……約10人というところだろうか?
「かわいい〜っ!」
「抱っこしたいわ!」
1人のメイドさんが私をひょいと抱き上げ、頬ずりしてきた。
「あ! ずるい! 次は私よ!」
「その次は私ね!」
そして代わる代わる、私はメイドさん達に抱っこと頬ずりをされる。
う〜!! いい加減にして欲しい! 普通の猫だったら、とっくに逃げ出して良いレベルだからね!
「はいはい、皆。そこまでよ〜」
そして最終的に私をここへ連れてきたメイドさんが他の人から私をとりあげると、再び抱き寄せた。
「ねぇねぇ、アビー。その子猫、どうしたの?」
おかっぱ頭のメイドさんが私を抱きかかえているメイドさんに尋ねてきた。
成程、私をここへ連れてきてくれた彼女の名前はアビーというのか。
「ええ、クロード様に頼まれたのよ。この猫が突然自分の部屋のバルコニーに現れたから連れ出して欲しいって」
「そう言えばアビーはクロード様のお部屋の掃除係だったわよね」
「でもどうして突然バルコニーに現れたのかしら?」
「そうなのよね〜。クロード様も不思議がっていたわ」
メイドさん達が首を傾げいている。不思議がるのも無理はないか。
何しろクロードの部屋は3階。そしてバルコニーへはクロードの部屋からしか出られないのだから。
まさか私がバルコニーへやってきたときはフクロウで、途中からは子猫に変身したなんてこと想像すら出来ないだろう。
「アビー。それでどうしてここへ連れてきたの?」
お下げ髪のメイドさんがアビーに尋ねる。
「ええ。実はクロード様からこの猫を外に連れ出して欲しいとは言われたものの、その後はどうしたらいいのか尋ねたのよ。そしたら何と言われたと思う?」
「なんて言われたのよ?」
「君に任せるって言われたのよ。ただ、自分には猫を近づけないでくれとも言われたわ」
ガーン!!
アビーの言葉に再びショックを受ける私。
そ、そんな……。今度もまた、私はクロードから拒絶されるとは……!
「あら、そうだったの……。それでここへ連れてきたのね?」
「クロード様は猫アレルギーだから仕方ないわね」
「でも、どうしてここへ連れてきたの?」
メイドさん達が仕事の手を止めて、今やすっかり私の今後の処遇について話し合いをしている。するとアビーがナイスな発言をした。
「ええ。何処から来たのかは分からないけれど、皆でこの猫ちゃんを育てない?」
「ええ、それがいいわ!」
「さんせーい!」
「皆でこの子猫を育てましょう?」
おおっ! これは何という素晴らしい展開。
こうして私は家無しから、晴れてペット? へと昇格することが出来た。
確かにクロードとの接点は持てなくなってしまったけれども、これからはここにいるメイドさんたちの役に立てれば、今度こそ人間に戻れるかもしれないしね。
私は新たに闘志を燃やすのだった――