魔法使いが消えた後、私はいつものように野菜畑まで闇の中を飛んだ。
「クロード……。喘息の具合はどうなのかしら……? 誰か『シルフィー』に気付いてくれればいいのだけど……」
バサリと近くの木の枝に舞い降りると、私は月を眺めた。満月はいつの間にか半月になっていた。
「もう、何日貴方に会えていないのかしら……。でもきっとフクロウの私のことを怒っているでしょうね……。何しろ私が白蛙を食べてしまったと思っているのだから」
ホ〜ウとため息を着くと目を閉じ、眠りに就いた――
「お〜い! 白フクロウ〜! どこにいるんだ〜い?」
木の上で眠っていると、不意に呼ばれる声が下の方で聞こえてきた。
「え? あの声は……!」
庭師さんだ!
「ホーゥッ!!」
(庭師さーんっ!!)
バサリと羽を広げて地上にフワリと降り立つと、庭師さんが私に駆け寄ってきた。
「おお! 白フクロウ! 良かった……無事だったんだな? 怪我の具合はどうかい? お前さんが『シルフィー』を摘んできてくれたのだろう?」
「ホウ? ホウホウホウホウ?」
(え? シルフィーが分かったのね?)
私はブンブン首を激しく上下に振りながら頷いた。
「やはり私の言葉が通じているのだな? お前さんが届けてくれた『シルフィー』のお陰でクロード様の喘息が治まったのだよ。今朝からはもう起き上がって、ベッドの上でお食事が取れるようになったのだよ」
『本当? クロードの喘息が治ったのね?』
「フットマンがお前さんに悪いことをしたと反省していたよ。折角クロード様の為に貴重な薬草を摘んできてくれたのに、追い払うどころか怪我をさせてしまったと。今彼は罰を受けて、謹慎処分にされているよ」
『ええ? フクロウの私を怪我させただけで謹慎処分にされてしまったの?』
「クロード様は大変お前さんに感謝していたよ。今はまだ部屋から出ることが出来ないが、明日には庭に出てこれると思う。自分の口から感謝の言葉を述べたいと話されていたのだよ」
『クロードが……?』
私は嬉しくなり、思わず甲高い鳴き声を上げた。
そして元気になった姿のクロードがひと目見たくて、バサリと羽を広げると空を飛んだ。
「あっ! 何処へ行くんだい!? 白ふくろう!」
庭師さんの私を呼ぶ声が聞こえる。
『大丈夫よ!窓の外からクロードの無事な姿を確認するだけだから!』
ホウホウと鳴いて庭師さんに説明すると、私はクロードの部屋を目指した。
**
クロードの部屋のバルコニーにフワリと下り立つと、早速私は窓の外から部屋の様子を眺めてみた。
幸い、カーテンが開いていたので室内はよく見渡せる。
「クロード……まだベッドの上にいるのかしら?」
窓に近付き室内を覗いてみると、ベッドの上で読書をしているクロードの姿が見えた。
「良かった……クロード。元気になれたのね」
クロードの姿を無事確認出来たので、再び畑へ戻ろうとした時……。
偶然にもクロードが顔を上げてこちらを見た。
すると彼は驚いたように目を見開き、ベッドから降りるとこちらへ向かって近づいてくる。そこで私はおとなしくバルコニーで待つことにした。
「白ふくろうさん!」
窓ガラスを開けたクロードは顔色こそまだ良くなかったけれども、全く咳き込んでいない。
「ホーウ。ホウホウホウホウホウ」
(クロード。元気になれたのね)
「フットマンから聞いたよ。君が僕の為に『シルフィー』を届けてくれたのだろう? それなのに、怪我までさせられて……大丈夫だったかい?」
クロードは私の前にしゃがみこんだ。
『いいのよ、そんなこと気にしなくても。でも元気になれて良かったわ』
「本当にありがとう。感謝してもしきれないよ……そうだ! 今いいものを持ってきてあげるよ!ちょっとここで待っていてくれるかい?」
クロードは私の頭を撫でると、部屋の中へと入っていった。
『何を持ってきてくれるのかしら……? またネズミだったら嫌だな……うっ!』
突如、私の身体が熱くなった。
こ、これは……まさか、また私の身体が変化する兆しが?
そして……ピカッと私の身体が眩しく光り輝いた――