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2−30 魔王だったの?

「ちょっと、何? その言い方。フフフ……変なの」


 魔法使いの話は何処か腑に落ちないし、何だかおかしくなってしまった。


「え? どこか変だったかな?」


「ええ、そうよ。何だか哲学的な物言いをするんだもの」


「哲学的……?」


 首を傾げる魔法使い。


「ええ、そうよ。だって自分だって人間のくせに、『本当に何故人間という者は平気で酷いことをするのだろう』なんて言うんだから」


「あ、ああ。そのことか。でも本当にそうは思わないかい? 折角サファイアが王子の為に『シルフィー』を積んできて上げたっていうのに、追い払うだけじゃなくケガまでさせるんだから」


 何だか随分不機嫌そうに見える。


「ねぇ……ひょっとして……怒ってる?」


「え? 誰が?」


「誰がって、貴方のことに決まってるじゃない」


「僕が……怒ってる? そうか……確かに言われてみればそうかも知れないね。だって君を酷く傷つけたんだから」


 その言葉に呆れてしまう。


「あのねぇ……今の言葉……はっきり言って全っ然! 説得力無いからね!? 貴方にそんなこと言う資格無いから!」


「ええぇえっ!? ひ、酷いなぁ〜。本当に君のことが心配で飛んできたっていうのに。どうしてそんな事を言うんだい?」


「当然じゃないのよ! 元はと言えば、貴方がこの体に呪いをかけたせいでしょう! だから私がこんな目にあってるんじゃないの!」


「だ、だからそれは王子の命令でやむを得なかったんだよ〜」


情けない声を出す魔法使い。その時、ふと夢の中で聞いた台詞を思い出した。


「あ、そうそう。聞いてくれる? 私、意識を無くしていたときに夢をみていたみたいなのよ」


「へ〜……夢? 一体どんな夢だい?」


 魔法使いが身を乗り出してきた。どうやら私の夢に興味があるようだ。


「うん、それがおかしな夢なのよね〜。声しか聞こえてこなかったんだけど、私……というかサファイアが……」


 そこまで言いかけて、私はクチバシを閉ざした。そう言えば夢の中で王子は魔法使いのことを何と言っていた? 確か『魔法使いの封印を解いて』と言っていたような気がする。

まさか、ひょっとして……。魔法使いは本当は人間ではなくて、魔王か何かで勇者のような人物に封印されてしまったのだろうか?

考えてみれば普通の人間が800年なんて生きられるはずがない。


「どうしたの? サファイア。何で途中で話をやめてしまうのかな?」


「ね、ねぇ……一つ聞きたいのだけど……」


 「うん?何?」


「貴方……もしかして本当は魔王だったの?」


「ええっ!? いきなり何を言うんだい? 僕は魔王なんかじゃないよ! 人間だからね!」


「ふ〜ん……なら、別にいいけどさ」


「ねぇ、何で僕が魔王だと思ったのかな?」


「だって800年も生きていれば、人間だとは思えないのよ」


「そうかな〜。でも賢者と呼ばれる人たちの中には1000歳を超える人たちも稀にいるんだけどな〜」


「ええっ!? そうなの!?」


駄目だ、平凡な地球の日本人である私にはこの世界の常識についていくことが出来ない。


「それじゃ、サファイア。君の目も覚めたことだし……そろそろ僕は帰るよ」


 魔法使いは立ち上がった。


「分かったわ。助けてくれてありがとう」


「うん、またね。サファイア。頑張って早く元の姿に戻るんだよ。今度会う時は別の生き物になっていることを祈るよ」


 そして魔法使いはフワリと宙に浮かぶ。


「はぁ!!ちょ、ちょっと待ってよ! 一体後何回変身すれば私は元の身体に戻れるのよーっ!!」


 けれど、魔法使いは私の質問に答えることなく、一瞬で姿を消してしまった――


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