私の耳元では風がゴウゴウと鳴り響いている。
すごい! 流石はドラゴン! パワーアップしたときの私の比では無い。いや、比べることすらおこがましい。やはりドラゴンは偉大な存在だ!
私は頭の中でありとあらゆる賛辞の言葉を思い浮かべながら、あっという間の空の旅を終えた。
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森が見えてくるとエメラルドさんはフワリと地面に降り立ち、私を草むらの上に下ろしてくれた。
<はい、到着よ>
「どうもありがとうございます」
頭を下げると、エメラルドさんはフフフと笑った。
<いいのよ、だって私達はもう友達なんだから。ここから先はもう貴女だけで行ってちょうだい。ドラゴンの姿でこれ以上近づくと人間たちに姿を見られてしまうから。私、あんまり目立ちたくないのよね>
「ええ、その気持よく分かります」
カクカク頭を上下に揺すぶりながら返事をする私。
<それじゃ、そろそろ行くわ。また気が向いたら会いにくるわ>
「そうですね。エメラルドさんから来てくれたほうが助かります。何しろあの山にはハゲタカや狼が彷徨いていますから」
<いえ、そういうつもりで言ったわけじゃないのよ。私って飽きっぽいから一つの住処にとどまれないのよね。今夜にでも別の住処に引っ越しするつもりだから>
「え? そうだったのですか……? それは残念です」
<あら? 本当に可愛いこと言ってくれるのね? それにしても……>
エメラルドさんは辺りをキョロキョロと見渡した。
「どうかしましたか?」
<ええ。アベルの気配が無いわ。あいつ……自分がここにいることが私にバレたものだから、さては逃げたわね……>
「すごい、あの魔法使いの気配まで分かるのですか?」
<ええ、当然よ。何しろアベルには私の大切な逆鱗を奪われたんだから……。そのせいで私は50年もドラゴンの姿に戻れなかったのよ! お陰で彼に対する愛もすっかり消えてしまったわ!>
プンプン怒りながらエメラルドさんはズシンズシンと地響きを立てて地団駄をを踏んでいる。
「はぁ……成程、そうだったのですね」
エメラルドさんの怒りっぷり……恐らく魔法使いは彼女に見つかれば、タダでは済まされないだろう。
<それじゃ私は誰かに見つかる前に山に戻るわね>
バサリとドラゴンの羽を広げるエメラルドさん。
「はい! ありがとうございます! あ! 今度会うときは私、多分人間の姿に戻っていると思います!」
<あら、それは楽しみね。それじゃまた。白フクロウさん>
それだけ言うと、エメラルドさんはフワリと空中に浮かび……まるでマッハのようなスピードで飛び去って行った。
「よし、それじゃ私もクロードの元へ向かわなくちゃ」
いつの間にか空は茜色に染まり、遠くに見える城はまるでシルエットのように浮かんで見えた――