「すみません! ごめんなさい! 偉大なるドラゴン様の大切なハーブを黙って持っていくような真似をしてしまいまして、本当に申し訳ございません! 寛大なドラゴン様、どうぞお許下さいませ! ただ、今1人の男性が酷い喘息で苦しんでいるのです。この『シルフィー』は喘息に効果絶大の妙薬! どうぞこの哀れな小さなフクロウにほんの少しだけお恵みして頂けないでしょうか!」
このままドラゴンにパクリと食べられたくない私は必死で、それこそ死にものぐるいでドラゴンに詫びと媚をまくし立てた。ついでに『シルフィー』をおねだりしてみた。
するとドラゴンの意外な言葉が頭の中に響いてきた。
<『シルフィー』? ああ、その黄色い花のことね? 別に持っていきたければ好きなだけ持っていけばいいわ。単なる雑草なんだもの。何故か勝手に私の住処に自生しているのよね>
「へ?」
あまりにも意外な台詞に拍子抜けしてしまった。
「そ、それでは……ほ、本当に持っていってもよろしいのですか……? 後で、やっぱり返せ〜なんてありませんよねぇ……?」
ビクビクしながら尋ねる私。
<そんなこと言うはず無いでしょう? それよりも……今はあなたの存在のほうが気になるのだけど……>
「え? わ、私……ですか?」
<ええ、そうよ。何だか妙に臭うのよね……>
え? 臭う? 自分では気付かなかったけれども、フクロウの身体って臭うのだろうか?
するとドラゴンの長い首が伸びてきて、私の身体をクンクン嗅ぎ始めた。
ひぇえええええ!! こ、怖い!!
私はまるでライオンの群れに放り込まれた哀れなチワワのように、身体を細めながらブルブル恐怖に打ち震える。
やがて匂いを嗅ぎ終えたドラゴンは首を引っ込めると質問してきた。
<あなた……アベルの知り合いでしょう?>
「え? アベル?」
アベル……? アベル、アベル、アベル……? はて? 幾ら名前を連呼しても、少しも心当たりがない。
「あの〜……アベルって一体どなたのことでしょう?」
恐る恐るドラゴンに尋ねてみた。
すると――
<何よ。本当にアベルのことを知らないの? そんなに彼の魔力の匂いを身体中にまとわりつかせておきながら?>
あ……も、もしかして……!
「あの! ひょっとしてアベルって、胡散臭い魔法使いのことですか!?」
<ええそうよ。その胡散臭い魔法使いのことよ。急に眠くなったと思ったら、彼の魔力の匂いで突然目覚めたのよ>
おおっ! すごい! やはりドラゴンと言うだけあって只者ではないお方だ。
けれど……あの使えない魔法使い、もとい……アベルめっ! ドラゴンに自分の存在がバレたくないからと言って、ついてこなかったくせに! 私に掛けた魔法で既にバレてしまってるじゃないの!
<やっぱり、彼のことを知っているのね? それで……一体彼とはどういう関係なのかしら……?>
ドラゴンは迫力のある目で、ギラリと私を睨みつけて来る。
あ、駄目だ。私……もう終わったかも……。
私は死を半分だけ覚悟した――