「な、な、何……この光景は……」
頂きが見えてきた時、私は身震いした。
地上では20頭程の狼が寝そべり、周囲に生えている木々の枝に無数のハゲタカの群れが止まって眠っている様子が眼下に見える。
そして『シルフィー』の側では緑色の巨大なドラゴンまでもが何故か目を閉じて眠りについている。その姿はあたかもまるで大切な宝物を守っているようだ。
「変ね……? どうして皆眠っているのかしら?」
一種、異様とも思える光景に思わず身震いする。
すると再び、頭の中に魔法使いの声が聞こえてきた。
<どうだい? サファイア。君が『シルフィー』を摘み取りやすくする為に辺り一帯の生き物たちには眠りの魔法を掛けてあげたんだよ?」
「きゃああ! だ、だからさっきも言ったと思うけど、いきなり頭の中に話しかけてこないでってばぁ!」
飛びながら文句を言う私。
<ごめんごめん。だけど互いの姿が確認出来ないんだから、いきなり声をかけるしか方法がないんじゃないかなぁ?>
正論を述べて来る魔法使い。
う……。た、たしかにそうだけど……。
「でも助かったわ! これで安心して『シルフィー』を摘んでくることが出来るもの! ありがとう!」
<え? サファイア。今……僕にお礼を言ったの?>
何故か戸惑っている様子の魔法使い。
「ええ。そうだけど。あ! 『シルフィー』が見えてきたわ!」
私は急降下して『シルフィー』を目指した。
バサァッ!
羽を羽ばたかせて、『シルフィー』が自生する場所へ下り立った私。地肌の見えた荒れ果てた大地の周囲は大きな岩場や木々で覆われている。
そしてその中心に目的の『シルフィー』が生えているのだ。
「だ、誰も起きたりしないでしょうね……」
木々の下ではオオカミたちが眠っており、枝には無数のハゲタカが眠っている。
そして肝心のドラゴンは岩場の陰で眠っている。
「う〜……そ、それにしても大きいわね……。シロナガスクジラ位の大きさはあるんじゃないかしら……」
ビクビクしながら、クチバシを使って『シルフィー』を引き抜く私。
早くこんなところ、おさらばしなくちゃ……!
「あ、あら……? な、中々引っこ抜け無いわね……? こんなにパワーアップしているはずなのに……?」
羽をバサバサ羽ばたかせながら、必死で引き抜こうとしていると不意に頭の中に声が聞こえてきた。
『こんなところで……一体何をやっているの?』
「え?!」
な、何……? この頭の中に響き渡る声は……? し、しかもこの声は……女性の声だ。
しかも背後で何か巨大な物がうごめく気配が……?
恐る恐る振り返った私は見た。そこに巨大なドラゴンが起き上がって、私をじっと見つめている姿が。
その目は……怪しく赤色に光っていた。
「ホーウッ!!」
(キャーッ!!)
私の鳴き声が荒れ果てた山頂に響き渡った――