「それじゃ、サファイア。今から君に偉大な魔法を幾つも掛けるからね。この魔法を掛ければ君は無敵なフクロウになれること間違いなしだよ。だけど本当にラッキーだったよ。何しろ僕はそんじょそこらの相手には魔法を掛けたりしないからね。それなのに君に2回も魔法を掛けてあげるんだから」
鼻高々に自慢話をする魔法使い。
「何がラッキーよ! 怪しげな呪いの魔法なんて迷惑なだけよ! そんなことよりも、早く私に魔法を掛けて無敵なフクロウにして頂戴!」
羽をバサリと広げて、ホウホウと訴える。
「わ、分かったよ。今掛けてあげるから落ち着いて」
そして魔法使いは口の中で何やら呪文のようなものを紡ぎ出していく。その言葉が何を意味しているのか異世界人の私にはさっぱり分からない。けれど何だか力がみなぎってきた気がする。
私はじっと魔法使の呪文が終わるのを待ち続けた。
……恐らく体感時間として30分ほど――
「……よし!」
ついに魔法使いは長い、長〜い呪文の詠唱を終えると、私を見た。
「魔法を唱え終わったのね? 何だか力が強くなった気がするもの!」
ホウホウと嬉し鳴きをすると、魔法使いは首を振った。
「いや、まだサファイアはか弱いフクロウだよ」
「はぁ〜っ! ふっざけないでよ!! 今すぐ無敵にしなさいよ! 気休めの魔法なんかいらないってば! 散々人を待たせておいて!!」
私はクズな魔法使い向けて、ギラリと鋭い爪が生えた片足を向けた。
「ヒッ!! お、お、落ち着いてよ!! 今から仕上げをするんだから!!」
「仕上げ〜? だったら、さっさと仕上げて頂戴!」
「了解」
そして魔法使いは私の前に両手を広げた。すると……。
ピカッ!!!!
とたんにそこから眩しい光がほとばしる。
「キャアアアアアッ!! ま、眩しい!」
思わず羽で自分の顔を覆い隠す。
おのれ〜クズ魔法使いめ!! 眩しくなるなら初めから言っておきなさいよ!
心の中で魔法使いに対する悪態をついていた時、自分の中に変化を感じた。
何だか、身体の中が熱い。そして漲る力……今すぐ羽を広げて飛び回りたい衝動に駆られてくる。
こ、これは一体……!?
「はい、サファイア。これで君は完全無敵なフクロウになれたよ」
魔法使いの声が聞こえる。
「ホーウッ!!」
私はその言葉に一際甲高い声で鳴きながら羽をバサァッ!と広げた。
「う、うわ! な、何っ!? ず、随分興奮しているようだね!?」
自分で私に魔法を掛けておきながらビビる魔法使い。
「ええ! これが興奮せずにいられるものですか! 今なら夜通し……どころか三日三晩寝なくても飛び続けられそうよ!!」
ホウホウと喉を鳴らしながら興奮が静まらない私。
「う〜ん……ちょっと魔法を掛け過ぎちゃったかな……でもまぁいいや。サファイア、君には全ての能力を強化する魔法を掛けたよ。しかもそれだけじゃない。猛禽類としての攻撃力も上げておいたから、ハゲタカや狼とも対等に戦えるかもしれない」
「そうなのね!? それは凄いわ!」
……「かもしれない」という言葉が少々気になったが、この際どうだっていい。何しろ今の私は大海原だって飛び越えていけそうなパワーに満ちあふれているのだから。
「それで? この効果はどれくらい続くのかしら?」
「う〜ん……これくらい?」
魔法使いは指を1本立てた。
「すごい! まる1日効果が続くのね?」
「い、いや。そうじゃないよ」
首を振る魔法使い。
「それじゃ1ヶ月!? それとも1年……。いや、流石にそれはないわね」
そしてチラリと魔法使いを見ると、申し訳無さげに俯いている。
ま、まさか……?
「ひょっとして……?」
「う、うん……そのまさかだよ。1時間なんだ」
「な、なんですって〜っ!!」
私のパワーアップしたフクロウの鳴き声が、超音波となって辺りの木々をざわめかせた――