「さぁ、何で一緒にあの山に行けないか理由を教えて頂戴」
私は木の枝の上に魔法使いを正座させた。
「は、はい……実は……あの山にいるドラゴンとは少〜し因縁がありまして……それで、ちょっと目をつけられてしまっているというか……」
「ふんふん。それでは尋ねるけど、一体どんな因縁があるのかしら?」
「ドラゴンの体の鱗にはたった1枚だけ逆さに生えている部分があって………」
「あ!! それ知ってるわ!いわゆる『逆鱗』という部分でしょう? 確か喉元に1枚だけ生えているのよね?」
すると私の言葉に驚く魔法使い。
「え? 何でサファイアがそのことを知ってるの? 大体ドラゴンの存在を知っただけで驚いたのに」
「う、うん……まぁね。私のいた世界ではドラゴンは実際はいなかったけれども伝説の生き物として、様々な小説で取り上げられているからね。って私の話はどうだっていいのよ! 話の腰を折らないでさっさと言いなさいよ!」
羽をバサバサ羽ばたかせ、ホウホウと鳴きながら続きを促す私。
「う……そんなこと言ったって……話の腰を折ったのはサファイアじゃないか……」
「何? 何か言った?」
「い、いえ。ナンデモアリマセン……」
棒読みで謝ってくる魔法使い。
「とにかく、時間が惜しいから続きを話してちょうだい」
私の言葉に魔法使いはコクリと頷き、重たい口調で話し始めた……。
****
魔法使いの話はこうだった。
それは今から約500年程昔のこと。
魔法使いはもっと強力な魔力を手に入れる為に、ドラゴンの逆鱗を奪ったことがあるそうだ。
ドラゴンの逆鱗には強力な魔力が秘められており、その魔力を体内に取り入れる為にあの山に生息するドラゴンの元を訪ねたという。
そしてドラゴンと友達? になり、信用させたところで催眠暗示をかけて、まんまと逆鱗を奪ったらしい……。
「な、なんて酷いことをするのよ!! 友達になっておいて裏切ったようなものじゃないの!」
「い、今では本当に悪いことをしたと思っているよ!? わ、若かりし頃の過ちだよ! まだまだ人間的に未熟だったんだよ!」
「何が未熟よ! それでも既にその頃は300歳を超えていたわけでしょう!?」
「う、うん……そ、それはそうなんだけどね……」
「全く……本っ当に最低なクズ男ね……」
「うっ! ク・クズ……?」
魔法使いが大袈裟な素振りで胸を抑える様子を呆れた目で見る私。
それにしても魔法使いといい、そのドラゴンといい……最低でも800歳を超えていることになる。全くどれだけ長寿なのやら……。
「それで? 貴方はまんまとドラゴンを騙して、逆鱗を手に入れて強大な魔力を手にいれることが出来たわけ?」
「……」
すると何故か黙ってしまう魔法使い。
え? ちょっと待って……。
「ねぇ……まさか、大切なドラゴンの逆鱗を奪ったのに、強大な力は手に入れられなかったわけ!?」
「い、いやぁ……考えてみれば、既に僕は偉大な魔法使いだったから何も変化が無かったんだよね〜」
「な、何よそれ!! それじゃ単にあの山のドラゴンを怒らせてしまっただけってこと!?」
「そ、そうなんだよ……というわけで、あのドラゴンは僕の気配には敏感なんだ! いくら姿を消してもドラゴンの勘でバレてしまうというか……と、とにかく彼女に見つかったら、この辺り一面消し飛ばされちゃうよ!」
ドラゴンがメスだということにも驚きだが、辺り一面消し飛ばされる程の力を持っているなんて……。
「そ、それじゃ私はどうしても1人で行かなければならないのね……?」
「うん。頑張ってね」
何処までも無責任な魔法使いに、私が怒りを感じたのは言うまでも無い――