「え……シ、『シルフィー』だって……?」
何故か魔法使いはそれだけ呟くと押し黙ってしまった。何その態度? もしかして、『シルフィー』と言うのは相当ヤバい代物なのだろうか?
「ちょ、ちょっと……な、何よ。『シルフィー』って、そんなにマズイものなの?」
魔法使いの思わせぶりな態度に何となく恐怖を感じ、思わず身体が半分位細くなる。
「知らない」
「え?」
首を振る魔法使いに思わず目が点になる。
「だ、だって今『シルフィー』って言葉に滅茶苦茶反応してたじゃないの」
「さぁ……何のことやら。僕は『シルフィー』って何か知らないよ」
そしてそっぽを向く魔法使い。しかも白々しく口笛まで吹いている。その態度に私がイラッときたのは言うまでもない。
「こ、こんのぉ……すっとぼけないでよ! そんな白々しい態度を取られて『はい、そうですか』って引き下がると思っているの?!」
魔法使いの肩に飛び乗り、連続突き攻撃をあちこちにしてやる。
「い、痛い痛い痛い!! ひぃいい!! わ、分かった! 言う! 言います! だからお願い、突かないで〜!!」
魔法使の叫び声が空に響き渡った――
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「アイタタタタタ……ひ、酷いよ……少しは手加減してくれたっていいじゃないか」
魔法使いは眼鏡を掛けているので、表情が良く分からない。けれど、さぞかし私を恨んだ目で見ているに違いないだろう。
「最初から素直に教えてくれば、私だってこんなことはしないわよ。それに私に言ったわよね? 『呪いを解く以外ならどんな願いでも聞いてあげるよ?』って」
「う……た、確かに言ったけど……でもなぁ……『シルフィー』のことを教えれば、君は間違いなく採取しに行くだろう?」
「え? 採取しに行く? それって……もしかして植物なの?」
「うん、そうだよ。『シルフィー』と言うのは、高山植物……ハーブなんだよ。煎じて飲むと咳が一発で止まる効果があるんだよ」
「あ……!」
そうか、だからあの庭師さんは『シルフィー』を欲しがっていたんだ。
「ねぇ。それってどんな形をしたハーブなの? 教えてよ」
「う〜ん……だけどなぁ……」
けれど、何故か魔法使いは難色を示す。
「何よ。さっきの言葉は嘘だったの? ならもう一度……」
羽をバサリと広げて威嚇のポーズをすると、途端に青ざめる魔法使い。
「わ、分かったよ! 教える! 教えます!」
「それじゃ、早速教えて」
「う〜ん……これは口で説明するよりも、映像で見せたほうが良さそうだな」
「え? 映像」
首を傾げた次の瞬間、突如魔法使いの腕が伸びてきて気付けば私は彼のおでこに自分の頭をつけていた。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ! な、な、何するのよ!」
あまりにも突然の出来事で軽くパニックになる。
「落ち着いて、今君の頭の中に映像を送るから目を閉じて御覧よ」
「う……わ、分かったわよ」
大人しく目を閉じると、彼の声が聞こえてくる。
「それじゃ、今から映像を送るからね……」
そして私の頭の中に、ある映像が浮かんできた――