ようやく魔法使いの笑いが止んだので、早速私は尋ねてみることにした。
「ねぇ、貴方に聞きたいことがあるんだけど」
「僕に? 何かな?」
眼鏡を掛けた魔法使いが私を見る。
あ〜あ……折角のイケメンがまた隠れちゃったよ。
「うん、ひょっとしてこの森はお城の中にあるの?」
「そうだよ、良く分かったね。あ、そうか。フクロウになったから空から城を眺めてみたのかな?」
「まさか! ここの庭師さんの言葉で私がいる場所がお城の庭だってことが分かったんだけど?」
「え? それじゃまだこの目でお城を見ていないのかい?」
「そうだけど?」
「それは勿体ない。この城はね、美しい森と湖に囲まれたとても綺麗なお城なんだよ? 仮にも君は伯爵令嬢だったからね。せめて何処か環境の良い城にでもと思って僕がここに君を飛ばしたんだよ」
「ふ〜ん、そうだったのね? ありがとう……って私がお礼を言うとでも思ったの!? ここに着いて早々に命を狙われたんだからね?しかも二度も! 一度は蛇に食べられそうになったし、魚に捕食されそうになったこともあるし!」
「う〜ん……この城の周辺は他の場所よりも安全なはずなんだけどな……。けれど、それは仕方ないよ。何しろ今の君は自然界に生きる野生生物。弱肉強食の世界なんだから」
「じゃ、弱肉強食って……」
あ、駄目だ。この魔法使いには私の気持ちなんて、これっぽっちも理解出来っ来ないんだ。
もはや怒りを通り越して、呆れるとしか言いようが無い。
「だけど……そっか。そんなに怖い思いをしていたのか……それは悪かったね」
不意に謝ってくる魔法使い。
「え? 本当にそう思ってるの?」
「勿論だよ、よし。それじゃいっそ僕が君を飼育してあげようか? 立派なフクロウの使い魔にしてあげるよ?」
「は? 使い魔……? 使い魔ですって!?
「うん、そうだよ。どう? ナイスな考えじゃないかな?」
魔法使いはひとさし指でチョンと私の頭をつつく。
「じょ、冗談じゃないわよ! 私は人間! ぜーったい、元の姿に戻ってみせるんだから!」
「そうかい……それは残念だな。君がいれば……少しは……」
魔法使いはしんみりした言い方をする。え? この魔法使い、ひょっとして……孤独なのだろうか?
でも考えてみれば800年も生きていれば、親もとっくにいないし親しい人もこの世にはいないのかもしれない。
「あ、あの……ね……」
私が口を開きかけた時……。
「君がいれば、毎日大笑いできて少しは退屈な日常から開放されると思ったんだけどな〜」
「な、何よそれっ! 私は貴方の暇つぶし相手じゃないのよ! 毎日毎日生きることに必死なんだからね! フンだ!」
羽を膨らませてプイッとそっぽを向いたつもりが、フクロウのクビはよく回転するものだから、思わず魔法使いの方を向いてしまった。
「プッ!」
途端に魔法使いが吹き出す。
あ……また嫌な予感がする……。
次の瞬間……。
「アーハッハッハッハッハッ……!!」
再び、魔法使いが笑い転げた――