ホーウ…‥ホーウ……
満月の美しい夜空に不気味なフクロウの鳴き声が響き渡る……。
「って言うか、不気味な鳴き声って私の声のことじゃーん! うう……いやだ、いやだ。真夜中に森に響くフクロウの鳴き声なんて……最っ悪!」
けれど野生の本能? なのかどうかは知らないけれど、何故か口から勝手に鳴き声を出してしまう。
これでは森に潜むフクロウの天敵に、どうぞ私を狙って下さいと言ってるようなものだ。
だからこうして今私、少しでも安全と思われる高い木の枝に止まっているのであった。
「何て大きな満月なの……。綺麗だわ……」
ホウホウと鳴きながら大きな月を見つめる私。
私が日本で見て来た満月と、この異世界の満月とでは月の大きさの規模が違う。例えるなら日本で見える月をピンポン玉だとするなら、この世界ではスイカ……いや、バスケットボール程の大きさでは無いだろうか?
「うぅ~……それにしても、あのヘラヘラした魔法使いめ……! よくも肝心なところでフクロウの姿に変えてくれたわね~!!」
これではクロードに近付くことも出来ない。それどころか庭師さんだけの感謝ではタイムアウトしで呪いが解けない可能性だってあり得る。
「魔法使いの馬鹿ー!!」
おもいきり叫んだその時。
「やぁ? 呼んだかな?」
突然背後から声が聞こえた。
「ホーウッ!!」
(キャーッ!!)
私の絶叫が夜の森に響き渡った――
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「あぁ……驚いた。いきなりそんな大声を出さないでくれるかな? 心臓が止まるかと思ったよ」
黒マント姿の魔法使いは胸を押さえながら木の枝の上で私を見る。
「別に止まったっていいんじゃないの? 800年も生きれば十分でしょう?」
魔法使いに苛ついていたので、きつい言葉を投げつけてやった。
「う! それはちょっと傷付くなぁ……君にだけは嫌われたくないのに……」
魔法使いはいじけた様子で口を尖らせる。
「ふん、一番私に嫌われそうなことをしているくせによく言うわね?」
「ねぇ? ひょっとして君を呪いに掛けた事……まだ恨んでいるのかな? でも仕方ないよ。王子の命令だったんだから」
「何よ! 偉大な魔法使いなら別に王子の命令なんか聞く必要無かったんじゃない?」
まるで自分は悪くないとでも言う言い方に腹が立つ。
「だけど、そういう訳にはいかないんだ……これには深い事情があってね……」
どこか、寂し気に語る魔法使い。
え……? もしかして何か重大な弱みでも握られているのだろうか?
「あ、あの……?」
つい同情して声をかけようとしたところ、魔法使いが恥ずかしそうに頭を掻いた。
「実は王子に住むところを提供してもらってるからさ~。借主さんには逆らえなくて」
ハッハッハッと笑う魔法使い。
「な、な、何よ~! 王子に何か弱みでも握られているんじゃないかと人が折角心配していたのに……。そんっなくっだらない理由で歯向かえなくて、この私にこんな呪いを掛けてくれたのね!?」
すると私の言葉に魔法使いが反応した。
「え? もしかしてサファイア……僕のことを心配してくれたの?」
「そ、そりゃあ少しは心配するけど? あ~でも心配して損したわ!」
「そうかな? でもありがとう。心配してくれて」
満月を背に口元に笑みを浮かべる魔法使いはいつもヘラヘラした彼とは様子が違って見えて……少しだけ照れくさい気持ちになってしまった――