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1−16 焦る私

「ちょっとぉっ! い、1年以内に呪いを解かないと、二度と元の姿に戻れないって……どういうことなのよぉっ!」


 ケロケロ喉を鳴らしながら叫ぶと、魔法使いは途端に堪えきれない笑いを吹き出す。


「笑うのはやめて真剣に答えなさいよっ!」


 「ご、ご、ごめん……ひぃっ! く、苦しい……だ、だけどおかしすぎて……」


 その後も魔法使いは笑い続け……ようやく笑いを押さえると耳を疑う話を始めた。



「実は僕が掛けた呪いの魔法は、古の時代から伝わる『戒めの魔法』なんだ」


「戒めの魔法……? それってどんな魔法なの?」


「うん。罪を犯した罪人たちに悔い改めさせる為に生み出された特別な魔法でね。でもある理由で数百年前に使用禁止になったんだよ」


「あ、ある理由って……一体何よ……」


 あ、尋ねる自分の声が震えちゃってるよ。


「それはね、この魔法は色々な魔法をかけ合わせて作られたんだけど……魔法の一部分には禁呪の黒魔法が使われていたんだ」


「く、黒魔法……」


 ゴクリと喉を鳴らす代わりに、ケロケロと喉を鳴らす私。


「クッ……! そ、それで……プハッ! その黒魔法のせいで……1年以内に呪いを解かなければ……グフッ! 魔法で変わってしまった身体が固定されてしまって……ククク……も、元の身体に戻れなくなってしまうんだよっ! アハハハハハハッ!!」


 魔法使いは私のケロケロと鳴く蛙の鳴き声に触発されて笑っているのだろうけど、私からしてみれば今の置かれた境遇を笑っているようにしか感じられない。


「エイッ!!」


 ついに切れた私は蛙ジャンプで魔法使いの顔目掛けて蹴りを入れてやった――




「うう……酷いじゃないか。僕の顔に蹴りを入れるなんて」


魔法使いは恨めしそうに私に文句を言ってくる。


「何よ、人の不幸を笑うからでしょ? 大体こんな吸盤の着いた足じゃ、威力だって無かったでしょう?」


「まぁ、それは確かに……でも800年生きているけど、蛙に顔を蹴られるなんて初めてだよ」


 その言葉に仰天した。


「ええっ!? は、800年!? さっき私に500年間って言ってたじゃないっ!」


「うん。そう言ったけど……よくよく考えてみれば、僕は君に掛けた呪いの魔法を生み出した魔法使いの1人だからなぁ……確かあれは800年程前だったかもしれない」


「あ……そ、そう……」


 駄目だ、800年前なんてもはやスケールが大きすぎて想像もつかない。けれど、今一番大事なのはそんな話ではない。


「ねぇ! それじゃ、私は本当に1年以内に呪いを解かなければ、もう二度と元の姿に戻れないの!? 冗談じゃないわよっ!」


「うん、そうなんだ。でも大丈夫、1年も猶予はあるんだから何とかなるよ。もし呪いが解けなかったときには、ぼくが君を飼ってあげるから、安心していいよ?」


 嬉しそうに言う魔法使い。


 まるで私が呪いを解けずに、一生蛙の姿のままを望んでいるかのような口調に苛立ちが募る。


 そして……魔法使いの顔面に二度目の蹴りを入れたのは言うまでもなかった――

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