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1−8 初めての頼まれごと

 この日から、私の住処はこの花壇となった。


 幸いこの花壇の側には綺麗な噴水もあるし、近くに池もあるので水に困ることは無かった。おまけにこの周辺では一度も危険な目に遭ったことが無いのも最高だった。


 そのお陰で私は魔法使いの言葉では無いけれども、快適な? 蛙生活を送ることが出来ていた。



 そんな蛙生活、五日目のある日のこと――



 『あ〜今日もいいお天気ね〜空が青くて気持ちがいいわ……』


 いつものように食事を(害虫捕食)済ませた後、花壇に寝そべって空を見上げていた。


それにしても平和な世界だ……。働かなくてもいいし、食事に困ることはない。

このままいっそ蛙生活を続けてもいいかな……?


 ふと、そこまで考え……我に返ると慌てて首を振った。


『な、何言ってるの!? 私は人間でしょう? こんなカエルの姿のまま人生の幕を閉じるわけにはいかないのよ!!』


 駄目だ。蛙の姿で生きていると、どうも思考まで蛙化? してしまうのかもしれない。しかし、私が半分元の姿に戻るのを諦めかけているのには訳がある。


 何故なら私はほぼ毎日庭師に「蛙さん、今日も害虫駆除をしてくれてありがとう」と感謝の言葉を貰っているのに、未だに蛙の姿からバージョンアップ? する気配が全く無いからだ。


『うう〜……あの詐欺魔法使いめ……さては私に嘘をついたんじゃないでしょうね……? 私が元の姿に戻れる魔法なんかかけていないのかも……』


 ケロケロと低い声で唸っていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「お〜い、白蛙さーん」


 あの声は……庭師さんだ! そうだ、もっともっと私に感謝の言葉を述べるように催促しよう!


「ケロケロケロ!」

(庭師さん!)


 ピョンと花壇から飛び降りると、ぴょんぴょん跳ねながら庭師さんの元へと向かった。


「やぁ、蛙さん。こんにちは、今日は君をこの花壇に住まわせて来れた恩人も一緒だよ」


 庭師さんの足元まで飛び跳ねていくと、彼は笑顔で私に声をかけてきた。


「ケロケロケロケロ?」

(私の恩人?)


 思わず首を傾げた時……。


「本当にこの白蛙は人の言葉を理解しているみたいだな〜」


 何処かで聞き覚えのある声が聞こえたので、見上げた。


「こんにちは、白蛙さん」


その人物はしゃがみこむと私に挨拶をしてきた。


『あ! あなたは!』


そう、彼は魔法使いの次に出会ったイケメン青年だったのだ。


「どうだい? この花壇の住心地は?」


 イケメン青年は蛙の私に優しい声で話しかけてくる。


『はい、とても住心地が良くて気に入りました。ただ一つ気にいらないことがあります。それは毎日害虫駆除に頑張っているのだから、もっと誠心誠意を込めて私に感謝してもらいたいということです。これではいつまでたっても人の姿に戻れませんよ』


 ケロケロケロケロと鳴きながら、私は必死でイケメン青年に訴えた。


「どうですか? クロード様。この蛙、本当に我々に向かっておしゃべりをしているように見えませんか?」


 するとその様子を眺めていた庭師さんがイケメン青年に話しかけた。


 あ、そうだ! 思い出した! このイケメン青年はクロードと言う名前だったっけ。


「うん、確かにそうだね。それなら……ちょっと試したいことがあるんだよな……」


 イケメン青年……もとい、クロードは少し考えた素振りを見せると私に声をかけてきた。


「白蛙さん。もし本当に僕の言葉が通じているなら……お願いがあるんだ。実は以前にあの池で大事なペンダントを落としてしまったんだよ。どうか探して貰えないかな? お願いだよ」


 そしてクロードは何と蛙の私に頭を下げてくるではないか。

 確かに池の中に落ちたペンダントを探すのは人間では無理だろう。

 だけど、蛙の私なら……?


「ケロ! ケロケロケロ! ケロケロケロロロロロケロ!」


(はい、もちろんです! その代わり見つけたら感謝してくださいね!)


勿論、私が即答したのは言うまでも無かった――





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