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1−4 聞いてない!

 魔法使いが呪文を詠唱し始めると、途端に私の身体が光りに包まれ始めた。


 おおっ!? こ、これは……何だか身体に力がみなぎってくる気がする。ひょっとしてなにか特別な力が身についたのだろうか?


 一方の魔法使いは真剣な表情で呪文を唱え続け……やがてピタリと口を閉ざした。そしてそれと同時に私の身体から光も消える。


「ふ〜……少々手間取ったけど、これで大丈夫だろう」


 魔法使いは再びメガネを掛けてしまった。


 あ〜あ……もったいない。せっかくのイケメンがまた牛乳瓶底メガネを掛けちゃったよ。


「うん? 何だか不満そうな顔してるね……? だけど、いいかい? これで君はただの呪われた蛙から、明るい未来が見えてきた呪われた蛙に生まれ変わったんだよ?」


『結局呪いはついて回るわけね? 何だか気分が悪いんだけど』


どうせ通じないのは分かっていたけれども、ケロケロと私は訴えた。


「いいかい? これから君は人に感謝される行動を取っていくんだよ? 誰かが心から君に感謝の言葉を伝えるほどに、呪いの鍵が解除されていく。そうすればいずれ元の姿に戻れるさ。塵も積もれば……という言葉があるだろう?」


『言葉が通じないのに、どうやって人に感謝してもらえるのよ!』


 酷い! これではあんまりだ! 何か特別な力をつけてくれるかと思っただけに、落胆も激しい。

 そんな私の気持ちを他所に魔法使いは言葉を続ける。……まぁ、意思疎通が出来ないのだから無理もないだろう。


「時々、君の様子を見に来るよ。良いことをして徳を積んでいけば、やがて人の言葉も話せるようになる……はずさ。分かったね?」


 魔法使いの言葉の間が気になるけれども、ここは彼を信じて頷く私。


「よし、理解してくれたようだね。それじゃ僕はそろそろ行くよ。この森には危険生物はいないはずだから快適な蛙生活を過ごせるはずだよ」


 はい? 今……この魔法使い、何と言った?

 危険生物はいない? 快適な蛙生活を過ごせるはずだぁ!?


『ちょっと!! ふざけないでよ!! 私はさっき、蛇に食べられそうになったのよ!?  どこが快適なカエル生活よ!』


 しかし、私の訴えも虚しく魔法使いはふわりと宙に浮かんだ。


「それじゃあね、サファイア。次に会うときは別の姿になれているといいね。出来れば今度は可愛らしい小動物姿で会いたいな」


 は……?

魔法使いの言葉に凍りついた。


『え!?ちょと待ってよ蛙からいきなり人間に戻れるんじゃなかったの!?』


 ケロケロと鳴いて訴えるも、時既に遅し。


魔法使いは私に笑みを浮かべると残酷? な言葉を述べた。


「またね、サファイア。次に会えるのを楽しみにしているよ」


そして彼は指をパチンと鳴らし、あっという間にかき消えてしまった。


『こらーっ!! 話はまだ終わっていないのよ!! 戻ってこーい!!』



ケロケロと私の鳴き声が森に響き渡った――


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