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第1話 魔女のなり方

 魔女になるために必要なもの、それは人に蔑まれることを何とも思わない強い心と、何かを成し遂げたいという強い意志だ。

 また、血の繋がった家族を捨てられる覚悟も必要である。

 魔女には薔薇の印を入れられる。

 魔女は魔女として、仕事をしなければならない。

 それは薬や呪いで人を癒すこともあれば、殺すことも出来る力があるということだ。

 生と死を操る存在。そんな存在になることを受け入れなければならない。

 これら全てを理解した後、本当の魔女として認められる。

 また、魔女の大半は魔女の子孫、それか孤児だ。

 魔女達はそれぞれの地域でまとまって動く。薔薇の印で繋がった家族である。

 家族はそれぞれホームと呼ばれる居場所で生活を共にする。

 稀にホームではなく、独立した形で一軒家などに暮らす魔女も、少数ではあるが存在することが確認されている。

 また、集会場のことも魔女達はホームと呼ぶ。


 よく勘違いされるが、悪魔崇拝は絶対ではない。

 確かに悪魔を崇拝し、悪魔と契約する魔女もいるが、極少数派だ。

 悪魔との契約は血の契約である。

 己の血を代償に、魔力を得る。その際には薔薇の印の他に、悪魔の紋章も体に刻まれることとなる。

 一生を悪魔に捧げ、魔女として隠れながら生活するならばこちらの方が良いだろう。

 悪魔の力により、生活に困ることはない。

 さらに、悪魔崇拝をしていない魔女よりも魔力があるため、活動の幅が大きく違ってくる。


 魔術に関しても書き記さなければならない。

 人間にとってプラスになる癒しや占いは白魔術。人間にとってマイナスになる呪いなどは黒魔術と呼ばれて区別されている。

 黒魔術をする際は魔方陣を描き、それ相応の準備が必要とされ、悪魔の召喚が必要となる。

 白魔術は完全に人間の魔力のみで行われる。魔女と言うが、ヒーラーや巫女のようなものに近い力だ。

 そのため、魔女を崇拝する信者も少なからず存在する。

 ただ、白魔術を得意とする魔女と、黒魔術を得意とする魔女の仲は悪くなりがちである。

 白魔術を主にする魔女は、黒魔術をする魔女のことを「汚い仕事をする闇の魔女」などと呼ぶ。

 逆に黒魔術を得意とする魔女は白魔術を主にする魔女のことを「綺麗なことだけをする偽善者」などと呼んでいる。

 白と黒、相容れぬ存在。しかし両方行うこともある魔女も存在する。

 最近では白と黒の境界線が曖昧であり、厳密に区別されることは少ない。


 さらに、男の魔女も存在する。

 しかしその多くは男娼である。呪いや薬の知識などなく、ただ見せしめに殺されることが多い。

 古くは魔術を得意とする男の魔女も存在したが、最近では滅多にいない。

 そのためか、男の魔女のことを灰色と呼ぶ魔女がいた。後々、灰色という呼び方は魔女になったら必ず教えられる言葉になった。

「灰色」は「魔女にも一般人にもなれない半端者」という差別用語でもある。


 隠れ魔女というものも存在する。この魔女は主に表向きは聖女、つまりはシスターなど神に仕える身の者だが、魔女としての知識がある者達のことだ。

 ただ、隠れ魔女の場合、表立って行動が出来ないため、活動に制限が掛かる。

 聖職を隠れ蓑にするためか、「蓑虫」と呼ばれるのだ。


 そんな魔女達だが、大人の魔女は数少ない。

 何故ならば、ある程度の年齢に達すると今まで依頼をした者達が手のひらを反して教会に情報を売って、見せしめに魔女を処刑するからである。

 このことから、魔女達は自分が処刑の対象にならないように、自分達の家族とは別の家族の情報を売り買いしている。

 そのため、魔女は自分の家族以外には決して心を許しはしない。


 魔女とは孤独なものだ。

 存在を隠さなければならない。家族にも、心を許せない。相手に深入りしてはいけない。

 それら全て、自分のためである。

 傷つかないため、ただそれだけのためにひとりで生きて行かなければならない。

 それはどの魔女も、魔女になりたての頃に面倒を見てくれる先輩魔女に教わることだ。


 これからこの本に記される魔女達が住まうのは、古から魔女が数多く存在しているにも関わらず、大きな教会が街の中心にある聖都市、通称「聖者の街」である。


――聖者の街。聞こえは良いが、つまり「偽善者」「嘘つき」「綺麗なところだけを詰め込んで見せている」実に滑稽な街だ。


 聖者の国には主にホームが七つある。

 それぞれが得意とする分野が違うが、皆魔女の証である薔薇の入れ墨だけは必ず体のどこかに入っていて、仲も悪くはない。

 ここ最近では情報交換のために魔女会議が行われる程、密接な関係を持っている。

 しかし互いに心を許しはしない。

 魔女というものは、誰かと深く繋がってはいけないのだから。


 では、聖者の街で魔女になるための方法を書き記さなければならないだろう。

 聖者の街ではまず、教会が運営する孤児院に定期的にやって来る薬草売りがいる。

 その薬草売りは実は魔女である。

 教会は相手が魔女と知ってか知らずか、快く教会の門を開く。

 そこで魔女は魔女になりそうな才能のある子供に目を付け、こっそりと手紙を渡す。

 赤い薔薇の紋章が刻まれた便箋に、時間と場所だけが書かれている。

 施設ではこの手紙の噂があり、貰った子は「嬉しい」と思うものだ。

 何故ならば、施設は厳しいシスター、通称「ママ」が理不尽な折檻をすることがある。

 毎日ロザリオを首から提げることを義務付け、忘れたら折檻。

 子供達にとってママは恐ろしい存在なのだ。


 手紙を受け取った子供は、隙を見て施設を出る。

 そして手紙に書かれている時間に、指定された場所に行く。

 すると魔女が迎えに来るのだ。

 子供にとってはそれが救いの天使に見えることもあると言う。

 それだけ、施設は過酷な環境だという証明でもある。

 だから、魔女達は慎重になる。

 なるべく衰弱していて、明日の命すらわからないような、教会の施設にとって害になりそうな人物で才能ある者を仲間に誘うのだ。

 すると教会は探すが、それは形だけで、すぐに終わる。

 その間、子供はホームで手厚く保護される。

 そして魔女になりたいか最終確認をするのだ。


 魔女になったら二度と普通の人には戻れない。

 一生、魔女でいるしかないのだ。

 それは、仕事を引退しても同じだ。必要があれば呼ばれる。

 事実上、一生の契約なのだ。


 それでも魔女になりたいと、子供達は思うのだ。

 中には自力で魔女になってホームに行く者もいる。

 そういった子供は、悪魔と契約していることが多い。

 つまり呪殺に長けている。

 逆に誘われた子供は白魔術、薬草の知識を覚えられる子だ。


 選ばれる条件は簡単。魔女の勘だ。

 勘だけが、頼りなのだ。

 どうしてもダメな時は、雑用など補助に回す。

 そうして、子供達はいろんな仕事を覚えて魔女になっていくのだ。


 以上が、魔女のなり方である。

 これを読んだら速やかに燃やすなり何なりして、この頁をなくしてほしい。

 人の目に触れないように。

 魔女のなり方は、頭の中でだけわかってもらえれば良い。


 そして、少しでも魔女のことを理解していただければ、幸いである。

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