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第八十五章 旅行にいくよ!

☆第八十五章 旅行にいくよ!


 夏、真っ盛り。麗奈、星弥くん、行登ゆきとさん、の有馬一家

 環名ちゃん、あき婆、そしてわたしと杏、ついでにまさかの藪内さんというメンバーで旅行することになった。


 当初の予定では、行登さんと藪内さんはメンバーに入っていなかったのだが、みんなで行ってしまおう! という麗奈の提案でみんなで行くことに。大所帯だ。


 行き先は、関西人のリゾート地の白浜。サファリパークがあり、海水浴客で賑わう。

お盆前ということもあって、人人人。超混みとまでは言わないが、かなり混雑している。


 砂浜にパラソルを立てて、海水浴! って藪内さんに水着見られるの恥ずかしい!


「え、まさかまだ身体見せてないんですか?」


 わたしが恥ずかしいって話をしたら、環名ちゃんに冷静にそうツッコまれた。そうだ、裸見せたんだった。恥ずかしいも何も今更……。


 みんなではしゃぐ、とにかくはしゃぐ! 夏の海水浴は気持ちいい! 星弥くんが小さな浮き輪でプカプカ浮かんでいて、杏も水に慣れてきたのかわたしにしがみついてはいるけれど、泣かない。

 行登さんは真剣にクロールで泳いでいるし、あき婆の水着姿が若々しくて驚く。環名ちゃんは何気にスタイルがいいし、藪内さんは、そんなみんなの様子をニコニコして見守っている。


 星弥くんはやっぱり麗奈に懐いているなと感じた。行登さんのことを嫌がっている様子はないけれど、敢えて自分から近づいてはいかない。


 先月、有馬さんは星弥くんを自分の養子として迎え入れたそうで、有馬星弥くんになった。かっこいい名前だなぁ。

 血の繋がらない親子ってどんな感じなのかなって一日、観察をしている。それは、自分もいずれそうなるかもしれないからって心のどこかで思っているから。


 藪内 琴 と 藪内 杏になるのか……。いっそのこと前田洸稀さんになってもらう。ああ、何先走っているのだ。


 星弥くんは実のパパと会ったことを覚えているのだろうか。そして行登さんを新しいパパとして受け入れているんだろうか? 麗奈と二人きりになった時にその話を持ち出してみた。


「星弥はねぇ……まぁまだ、年齢的に何も考えていないかな。パパとは呼ばせていないし、

行登さんが声をかけて嫌がる様子はないけれど自分からは近づかないから、まだ少々警戒しているのかなーって思う」


 麗奈もそこは複雑そうだ。


「いつか、自分のパパとかママとかはっきりわかる年頃になったら、もしかして自分の本当のパパに会ったことを思い出して、あれ? って思うのかもしれないね。生まれてくる子とは異父兄弟になるし、その辺も……思春期くらいになったらわかってくるのかな」

「名前が変わったことについては?」

「まぁ保育園はみんな苗字じゃなくて、先生たちも星弥くんって呼ぶから。小学校にあがったら、有馬さんって呼ばれるようになって実感が湧くのかな。そもそも高田姓をどの程度覚えているのかも謎だけどね」

「そっか……」

「琴ちゃん、それを私に聞くってことは藪内さんとの結婚も考えているの?」

「えっ……⁉️」


 図星だ。


「結婚なんて恐れ多い」

「何言っているの。十分可能性はあるでしょう」

「……」

「結婚て何だろう」

「何? 哲学的な話? そういうのはあき婆に聞いてみたらいいかも」


 あき婆ならなんて答えるだろうか。


「まぁ、単純明快に考えるなら、好きな人とずっと一緒にいたいと思うから結婚するんだろうね」

「うん……」

「あとは、まぁ、すっごい現実的な話にはなるけれど、籍を入れておいた方が何かと安心、安全だし、日本の社会って事実婚にはあんまり理解ないからね」


 確かに、身のまわりに事実婚の人はいない。


「たとえば、相方が手術を受けるとなって、ご家族の承認が必要とか、ご家族しか面会できないとかそういう決まりってけっこうあるじゃん」

「そうだよね」

「そういう時、事実婚で戸籍上の夫婦じゃない場合って家族とみなされない。とか色々面倒だからさ。同棲しているだけでも一緒で、籍を入れない限り、赤の他人とみなされてしまうからね」

「赤の他人かぁ」

「てか、わたし思うけど、どうして日本って男性側の苗字に合わせないといけないんだろうね」

「それは確かに」

「高田から有馬に苗字が変わると、それに合わせて色々カードとか全部名義変更しなきゃいけないし、女の方が面倒」


 それは、わたしも早乙女琴から前田になった時に経験した。


「向こうが高田行登になるってのも法律的にはアリなんだけどね。なんでかなぁ、女性側の姓になると、色々勘くぐられるっていうか。なんで女性側の姓になったのっていちいち質問されたり、婿養子って言われたり」

「だよね……」

「何なに、なんの話?」


 突然現れたのは行登さんだ。


「あ、盗み聞き!」

「いや、何も聞こえてねぇ」

「えーっ」

「オレが婿養子って話」

「聞いてるじゃん! えー、どっから聞いてたの?」

「いや、ほんとにそこだけ」


 なんだかんだで二人は仲が良さそうだ。

「ところで部屋割りはどう?」


 行登さんがニコニコしながら質問してくる。

「もー、あんたは、琴ちゃんは純粋なの!」


 そうだった。ホテルの部屋割が……、有馬一家、あき婆と環名ちゃんがツイン、そして、

わたし、杏、藪内さん。というメンバー。


「でも必然的にそうなるでしょう? 何? 婆ちゃんと一緒の部屋がよかった?」


 行登さんは意外と口が軽い。


「ごめんね琴ちゃん。予約した時点で三部屋しか空いてないって」


 そうなのだ。杏がいるとはいえ、藪内さんと同じお部屋……。

 だんだん緊張してきた。


 大浴場で風呂に入り、夕飯を食べて、自室に帰る。ツインの部屋でベッドが二つ。当然、藪内さん。杏アンドわたし に分かれる。


「あれっ、寝ちゃってる⁉️」


 昼間の海水浴で疲れたのか、抱っこしていた杏はぐっすり夢の中。そうっとベッドの上に寝かせてタオルをかける。


 空気を読んでいるのか否か、我が娘は爆睡である。


「あ、藪内さん、ほら、窓から月が見える!」


 部屋の窓にぽっかりお月さまが見えた。眼下は海だ。ざざざ……波の音が聞こえる。


「洸稀って呼んでくれないんですね」

「えっ、あ!」


 うっかりまた藪内さんと呼んでしまった。


「え、えーと、洸稀さん……」

 口を塞がれた。ああ、三十も半ばなのにどうしてこんなに緊張するのだろうか。


 窓から微かに流れ込む潮の香りを感じながら、彼の体温を感じる。繋いだ手が熱い。

「琴さん……」

 少し焼けた肌は燃えるように熱い。体中が火照って我を忘れそうだ。


 ああ、隣に娘が寝ているっていうのに。あれ、でも世の中の夫婦ってそんなもんか。


 白浜の夜が更けていく。


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