☆第八十四章 夢。
あれから定期的にわたしの夢には波琉ちゃんがでてくる。なぜなのか。親しい間柄でもない、親族でもない、生まれてからずっと一緒にいたワケでもない。
夢の中で彼女はいつもベージュのTシャツとグレイの短パンをはいている。顔や腕には傷やアザがあって……。
わたしがその話を藪内さんにしたら、手を握ってくれた。
「心配なんだね」
「うん……」
季節は巡る。暖かい日差しは、徐々に勢いを増し、紫外線対策を怠ってはならないレベルになってきた。今日も腕や顔に日焼け止めを塗る。
緑が濃くなり、曇りの日が続き、セミが鳴き出す。麗奈のお腹は見るからに大きくなっていた。
「また男子―!」
エコーで男の子ということがわかった麗奈は、相変わらず週一は我が家でご飯を食べている。
「最近、食欲が止まらないのぉ」
以前は嫌がっていた和食も勢いよく食べる。
「妊婦が働くってさぁ……しかも上の子の子育てしながらって想像はしていたけれど大変よね!」
わたしも妊娠中に働いていた。が、それは杏がいない状態で一人自分の身体の中に赤ちゃんがいる状態だった。あの状態でも毎日切磋琢磨していたのに、上の子をお世話をしながらなんて……想像を絶する。
「一人目の時って妊婦は重いもの持ったらダメですよなんて言ってたよ。でも今や星弥を抱っこしているから、十キロオーバー余裕よね」
「世の母親はみんな尊敬されるべき存在だね」
あき婆はもうすぐ八十歳だが、背筋が伸びていて、いつも動きがテキパキしている。みんなが集まる日は豪勢に、サラダ、煮豚、焼き魚、汁物、なんかが並ぶが杏と二人きりの食事の日なんて、ワンプレートでとにかく皿一枚に収めてしまう。
杏は随分と成長して、髪が伸びて、毎日あれこれアレンジをしている。ツインテールの日もあれば、おだんごの日もある。野菜は相変わらず嫌いでフルーツは好き。でてくる言葉はだんだん達者になってくる。
星弥くんはすっかりお兄ちゃんになって、わんぱくだ。平和な日々がそこにある。
わたしと藪内さんは……。
「杏ちゃんは僕に懐いてくれるでしょうか?」
ある日突然、そんなことを言い出した彼にドキッとしてしまう。
「これから、日曜日とかたまに一緒に過ごしませんか?」
そう提案したのはわたしからだった。平日は仕事だし、土日は杏がいるし毎回あき婆に預けるのも申し訳ないし、もう我が家にきてもらおう。と思って勇気を振り絞り、そう言った。
結果、たまの日曜のつもりが毎日曜に彼が家にやってくるようになった。そして土曜日もなんだかんだと公園で会ったりしている。杏はだんだん、藪内さんに慣れてきたようだが、三人で買い物に行くと、「旦那さん!」って声をかけられて、ビビったりもする。
彼は将来のことをどう思っているのだろうか。