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環名の一目惚れ?

☆第四十五章 環名の一目惚れ?


 夏が過ぎても残暑が厳しい。一ヶ月が経過して、例の男の人には会っていない。やはりただの偶然で、わたしの勘違いだったのだろうか。だとしたら警察に相談に行った自分が超恥ずかしい。


 いつも通り、杏を保育園に送り出して、環名ちゃんと一緒に動画編集の作業を行う。


 動画の視聴回数は最高、八万回と順調で、収入がほんの少し黒字になってきた。でもまだほんの少しなので、生活が苦しくならないように、麗奈に頼りっきりにならないようにもっと稼ぎたいと思う。


 十六時に作業を終えて、食材の買い出しにスーパーに向かう。今日は珍しく環名ちゃんも一緒だ。


「お酒のストックがなくなったので……」

「朝ご飯ちゃんと食べているの?」

「んー、菓子パンかじるくらいですね」

「栄養偏るよ」

「夕飯がありがたいかな、偏っていないので」

「それはそうだけど」


 最近、十二時から十三時の昼休みには、朝に作っておいた弁当を食べる。または二階に上がって、ラーメンやパスタを茹でる。時にはコンビニに行くなど、その日その日で適当に対応していた。


「せめて昼ご飯が偏らないように」

「あーだから、今日のラーメン野菜てんこもりだったんですね」


 今日は、二階に上がってインスタントラーメンを作って二人で食べたが、環名ちゃんの椀に、ネギともやしとコーンとわかめと卵をどかっと乗せた。


「一週間でお酒何リットル飲んでいるの?」

「えー、リットル換算したことがなかった。二リットルくらいには抑えてますよ」


 そんな話をしていると、また背筋がぞわっとした。誰かに見られている感がする。わたしは思わず環名ちゃんの脇腹を右手の人差し指でツンツンする。


「また気配がする……」

「わたしも思いました……」

「スーパーまでダッシュする?」


 二人、駆け足でスーパーへ向かって、カゴを取って店内に入った。


「確かに気配しますね」

「ね、誰かに見られている感が……」


 一体なんなのか。はっきりしてほしい。野菜、豆腐、魚を手にとってカゴに入れる。隣の人と腕がぶつかった。


「あ、すみません」

「すみませ……」


 例の人だった。固まってしまう。


「琴さんどうしたの?」


 そうか、環名ちゃんは彼の顔を知らない。


「こんにちは」


 目を細めてくしゃっと笑う。


「こ、こんにちは」


 とりあえず挨拶だけして、そそくさとその場から去る。


「ね、ね、今の人だれ?」


 女子高生のようにワクワクしながら聞いてくる環名ちゃん。わたしは小声で

「例の人だよ……」と答える。すると環名ちゃんがキョトンとする。

「えっ、ウソ、超イケメンじゃないですか」


 たしかに顔はいい、身長も高い、年収とか身分とか何も知らないけれど環名ちゃんの理想に近いのだろうか。


「家が近いのかな……」


 思い過ごしかもしれない。単純に家が近所でたまたま偶然会っているだけ。なんだか本当にそんな気もしてきた。しかし、その日から環名ちゃんの様子がおかしい。


「あれは恋しとる顔やね」


 アキ婆が家庭料理の域を超えた料理を皿に盛った。


「すごっ、これ何の料理ですか?」

「スズキのポワレ」

「ポワレ……」


 頭の辞書にそんな言葉があったような、なかったような。


「ポワレより、環名の嬢ちゃんが気になる」


 あき婆がじろじろと環名の姿を見ている。確かになんだろう、うっとりしているような。


「それが……ストーカーかもしれない疑惑の人に会って、その人がカッコいいって」

「えっ……ストーカーに恋しちゃったの⁉️」

「いや、でもストーカーって決まったわけじゃ……」

「どこで会ったんや?」


 あき婆と麗奈にスーパーで例の人に会ったことを説明する。


「なるほど、確かにただのご近所さんなのかもしれんのう……」

「ああ、確かに意識してなかったけれど顔はイケメンかもね」

「ちょいと素性を調べてみるか」


 アキ婆の発言に皆が注目する。


「どうやって??????」

「まぁ、作戦を立てようか」


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