☆第三十五章 日常とビジネス。
島崎さんから電話があって、イラストが完成したとのことだ。早速、パソコンに送ってもらったメールを開くと、わたしは釘付けになった。
カラフルなんだけれど、落ち着いていて、和風なんだけどどこか垢抜けているキャラクターたち。すごい、こんな絵が描けるのにプロじゃないってどういうこと⁉️
「わーすごいっ!」
麗奈も目を輝かせている。
「すごいよね」
「語彙力全然ないからすごいとしか言えない」
「確かにw」
このキャラクターたちが動くの⁉️ 動かせるの……。
「アニメーションはプロに頼むとしてもこれ、大変じゃないかな」
「まぁ確かにね」
一応、依頼したいと思うアニメーターさんを数人ピックアップしている。
さらに音楽作成ソフトで様々な音楽を造る技術は島崎さんから教えてもらっている最中だ。
「環名でいいよ」
と言ってくれたので、環名ちゃんと呼ばせていただくことにした。環名ちゃんは、週六日、電器屋で働いている。
「週休一日しかないってあり得ないですよー」
と頬をふくらませていた。そんな忙しい彼女にわざわざ来てもらうのは申し訳なかったが、だいたい三日に一度は仕事が終わったあとに来てくれる。
そうそう。この家の世帯主は高田麗奈にした。これまでは世帯主が麗奈の父親だったが、名義を変更した。地味に相続税をとられたが、全く住んでいない麗奈のお父様に迷惑をかけたくはなかった。
家の前の表札は『高田』になっている。
「琴ちゃんも住んでいるんだから、前田も必要だよね」
麗奈はそう言って、高田の表札に大胆にも油性マジックで前田と書き足した。
一応この間の件があったので、玄関前に防犯カメラを設置した。何かと出費がかさむ。
「じゃーん」
ある日、環名ちゃんが、セキュリティー会社のステッカーを持ってきてくれた。
「これ本物?」
「ううん、偽モン」
偽物に見えない。
「このステッカーを家の前に張っているだけで防犯になるから」
なんとありがたい。
話を戻そう。わたしがビジネスとして立ち上げようとしているミュージックプロモーションアニメの制作は本格的に始動し始めている。
大正琴の音を録音するには、本来、防音室がほしい。つまりレコード会社のレコーディング室ってやつ。しかし当然ながら一般家庭にそんなものはない。
探せ。この時代ありとあらゆるサービスがあるはずだ。
……あった。レコーディングスタジオがレンタルできるところ。
予約をする。
「あ、琴ちゃん、外見て!」
窓の外は真っ暗だが、目を凝らすとチラチラと白いものが舞っている。
「雪だ」
わたしはあと四日で誕生日を迎える。杏は二週間後だ。
この一年間、本当に色んなことがあった。
苦しかったけれど、でも楽しかった。そしてまだまだこれからも生活は続いていく。
「綺麗ですねー」
環名ちゃんも窓から顔を出して空を見上げる。
どうか今の幸せが、長く続きますように。