☆第二十九章 バンドメンバーってどんな感じ?
翌、二十五日。スズキさんは途中で帰ったので島崎さんがこの家に泊まった。スズキさんの旦那さんがイヴの夜に妻子ともにいないと寂しいのではと思ったが、旦那さんはそもそも単身赴任中らしい。だからこそワンオペで、病気になったのだと話していた。
泊まっていけばと言ったが、さすがに遠慮したのか帰宅。
あ、そういえばあき婆も初めてこの家に泊まった。
ベロベロに酔った島崎さんとは対照的に、彼女は顔色ひとつ変えずに焼酎を何杯も飲んでいた。
朝、目が覚めて枕元にプレゼントが置いてあり大興奮の星弥くん、クリスマスってなあに? って感じのいつもと変わらない杏。
そして……
「うううううううう、アタマいたい」
島崎さんは今日も出勤らしい。電器店だから年末は繁忙期だろう。こんなコンディションで出勤して大丈夫なのか。
「ほれ」
あき婆がすかさず、ウコンドリンクを手渡す。
「あざーす」
最初に会った時のつぶらな瞳の島崎さんのイメージはちょっと変わったけれど、親しみやすい人だとわかった。
一方のわたしは、いい加減、動画の編集やら仕事をどうするのか決めなくては、と思って実は一月に単発バイトを申し込んだ。これはあくまでお金のためだ。
バレンタインデーに向けたチョコレートの検品作業を工場で三日間という本当に単発のバイトである。
そして動画の方は、イメージが少しだけ固まってきていた。
こどもの絵本を読んでいた時に、人魚が琴を弾いたら? シンデレラが琴を弾いたら? なんて想像してみて、あまりに異色だったが、めっっっっっっちゃ美しい
十二単っていったら平安時代になっちゃうけれど楽器は大正琴。もう一度実家を見に行ってみようか、十七弦箏がどこかに眠っているかもしれない。まぁ、録音してしまえば大正琴でもさほど問題はないのだが、それをイメージしたところで形にするのは大変だ。
バンドを組む。ボーカルはいるのか、いないのか未定。
ギターの代わりに
ベースの代わりに
ドラムの代わりに……いや、ドラムは現代のドラム。
キーボードもつけようか。
いずれもパソコンの音楽作成ソフトで造りあげることになるので、そこは島崎さんに手伝ってもらう約束をとりつけた。
イメージイラストを描いてみる。絵は上手くない。だけど、とんでもなく下手ってわけでもない。
スマホを使ってネットから参考になる画像を探しながら描いていく。
十二単って、こんな動きにくい服、よく着たなぁ。暑くないの? 夏はどうするの? トイレどうするんだろうとか、そんな地味な疑問がアタマをよぎる。
もちろんただの十二単ではない。モダンアレンジファッションで、でも髪は黒のストレート。ピンクとか黄色の髪もわるくないけど、黒ストレートは鉄板。と勝手に解釈。
眉はイマドキ、ブーツも履かせる。ヘッドホンもつけてみる?
なんだか不思議なキャラができあがった。この子(年齢決めてないけど)に琴を演奏させる。年齢サバ読みすぎかもしれないけれどわたしの擬態ということにしておこうか。
十七弦箏の奏者はイケてるおっさん。
蛇味線はセクシーなお姉さん。
ドラマーは……、若い男子。
キーボードは超かわいい女子?
なんだ、この和洋折衷およびメキシカンとコリアン料理まで混ぜましたみたいなバンドはw
夜、島崎さんが「ただいま~」と我が家に帰宅。あれ、いつのまにか我が家⁉️
イメージ案を麗奈と島崎さんに見てもらう。
「おもしろーい!」
「琴さん、絵上手ですね!」
自分では絵が上手いと思ったことがなかったが、褒められると嬉しい。
わたしはキャラクターをひとりずつ説明していく。
「十二単だと袖が邪魔で楽器弾きにくいんじゃない?」
「いっそのこと肩出す?」
ここから三人でひたすらアイデアを出す。
「D.Jがいたら面白いかも」
まさかのD.Jまで登場。
そうやって出来上がったメンバーたち。
「いいんじゃない? あとは楽曲、演奏、そしてアニメーションだね」
「なんかパクったみたいになっていてごめんなさい」
「ううん、このバンドに合わせて作曲してみる、電子になるけれど。でも琴ちゃんは生演奏を録音したいんだよね?」
「う、うん……せめて琴だけは」
「年末年始忙しいからちょっと時間かかるけれど、任せておいて!」
そういって島崎さんは帰っていった。
「もしかしたら島崎さんもここに住むのかなって思っちゃった……」
わたしがそう呟くと、麗奈が笑う。
「違う違うw 彼女昨日マフラー忘れていったから」
「あ、そういうこと」
そういえば淡いピンクのマフラーがダイニングの椅子にかけられたままだった。
「もうすぐ年が明けるね」
クリスマスが明けると、時期に正月だ。