☆第二十八章 Today is merry merry happy クリスマス??
「ジングルベールジングルベール、鈴が鳴る~♪ 今日は楽しいクリスマス♪ Hey!」
テーブルの上にはあき婆特製のローストチキン、サラダ、オードブルにケーキ。
部屋に飾られたクリスマスツリーの電飾灯がキラキラ輝いている。
「ケーキ、ケーキ!」
星弥くんの目がキラキラしている。
「きょう、ほんとうにサンタさんくるの?」
「くるよ~」
「今日はお招きいただきありがとうございます」
スズキさんが謙虚な挨拶をする。隼くんと亜優実ちゃんもこの間見たときより大きくなった。
「亜優実ちゃん、お洋服かわい~!」
亜優実ちゃんは、お姫様みたいな水色のドレスを着ている。
「おひめさまだもん!」
杏は、立てるようになった……三秒くらい。成長は平均的だろうか。来月がお誕生日で一歳になる。そろそろ歩き出すのだろうか。
「このところ亜優実の情緒が安定してきたみたいで……」
「それはよかったです!」
「誕生日が二月なので四歳が近づいています」
「そっか、亜優実ちゃんはもうすぐ四歳かぁ」
ネットの書き込みで、一歳はギャング、二歳は怪獣、三歳は宇宙人、四歳は天使ってのを見かけたことがあるが、宇宙人がある日、キラキラ~と羽を生やして天使になるのか。
一歳は物の良し悪しがまだわからなくておもちゃを放り投げたりする。二歳は確かに怪獣な気がする。三歳の宇宙人ってのは、言葉がまだ覚えたてで何をしゃべっているのかわからないことがある。四歳になると、言葉もハッキリしてきてイヤイヤ期も治まる。という理由らしいが、親からしたら多分幾つでも天使なんじゃないか。
杏は何でも口に入れるし舐める。そういう時期だっていうのは分かっているし、好奇心旺盛にあちこち動き回るがまだ、大変!!! って時期には入っていない。これから歩いて走ってイヤイヤして、が待ち受けている。
「こんにちは~」
「あっ、環名ちゃん!」
賑やかなパーティーが始まった。
「飲める人?」
あき婆が突然、テーブルになにかを置いた。
「えっ、焼酎⁉️」
「ワインがいいかと思ったけれどわたしが好きなもんで」
当然、わたしは授乳中なので禁酒だ。スズキさんも禁酒。
「お酒ねぇ。あーノンアル買っておいたらよかったかも!」
「麗奈は飲めるんでしょ?」
「まぁビールを嗜む程度かな。梅酒は好きだけど。琴ちゃんとスズキさんは?」
「わたしは、まあ元々そんな飲まないかな」
お酒は付き合いの席で飲む程度で大して好きでもない。
「えーっと……」
スズキさんが言葉に詰まる。
「スズキさん?」
「あ、いえ、お酒は嗜む程度です」
突然、カバンの中から美しいグラスを取り出したのは、島崎さんだった。
「師匠、いただきます」
島崎さんもあき婆とは顔見知りらしい。
「マイグラス、ウケる~」
麗奈が笑う。
「すいません、酒豪なんです」
島崎さんはあき婆の持ってきたアルコール度数高めの焼酎をマイグラスに注いでもらっている。
「クリスマスはやっぱり焼酎ですよね!」
シャンパンが正解な気がするけど、まぁ細かいことはいいか。
スズキさんはある程度料理をつまんだらお礼を言って帰っていった。星弥くんと杏をお風呂に入れて寝かしつけると大人たちの時間が始まる。
「ふぁ~、うちのじょーしめっちゃムカつくんですぅぅぅぅぅ」
完全に出来上がった島崎さんがフラフラしている。
「環名ちゃん飲み過ぎだって」
「じょーしがねぇ、おきゃくさまにはいつもニコニコしてるのにぃ~、バックヤードではやばいんですよぉぉぉぉ」
そう言いながら島崎さんが麗奈にからんでいる。
窓際にいたあき婆が「ちょっと」と小声で言う。
「ん? どうしたんですか?」
わたしはあき婆の方に近寄った。
「誰かがこっちを見ている……」
「えっ……」
窓の外は至って普通の住宅街の路地。時刻は午後十一時前。
確かに誰かいる……一瞬目が合った。と思ったらその人は歩き始めた。
「んー……」
あき婆が難しい顔をしている。
「こっちを見ていたんですか?」
「ああ、おそらく一分くらい立ち止まって」
「え……」
なんだろうか、もしかして騒がしい家だなぁって思われていた? そんな程度だったらいいが、勘のいいあき婆が苦い顔をしていたのが気になる。
聖なる夜、サンタはそろそろ日本にやってきている頃だろうか。