☆第二十四章 漠然とした意気込み。
「うわっ、ホコリすごい」
実家の押入れから黒いケースを出すと、ホコリにまみれていた。
ケースを開けると
大正琴とは、タイプライターのような鍵盤と右側に短めの弦が張ってある初心者にも弾きやすい楽器である。
「あんたそれどーすんの?」
母が不思議そうに覗きこむ。
「なんか久しぶりに思い出したの」
ベンっ
初心者って感じの音が鳴った。
「懐かしいわねぇ」
「でしょ」
「弾くの?」
「どれくらい覚えているかなぁ」
実家の仏間に飾られている祖母の遺影に向かって話しかけた。
「おばあちゃん、この琴わたしにください」
もちろん返事は返ってこないけれど、遺影の中の祖母が頷いたような気がした。気のせいだよね?
「おーい琴!」
居間の方から父が呼んでいる。
「何?」
「杏がハイハイしているぞ!」
確かにいままではお腹をつけた、ずりばいだったのに、両手両足で踏ん張って歩いている。あれ、でもおかしいぞ。
ハイハイといったら普通、膝を床につけているものだが、膝まで伸ばしているからまるで産まれたあとに立ち上がった馬のような格好だ。
思わずぷっと笑ってしまう。
「なんかおかしい」
「杏ちゃん、それだと頭が重くて歩きづらいんじゃ……」
母の言うとおり、バランスとるの大変じゃないか。と思った瞬間、頭からぐしゃっと倒れて泣き出した。
「あー、はいはい、大丈夫大丈夫」
母が杏を抱っこした。
「赤ちゃんは頭が重いからねぇ」
杏は個性的なハイハイというスキルを身につけたようだ。
麗奈に借りた車に、大正琴を乗せた。当然、杏はチャイルドシートに。
今回はこれを取りに返るだけの帰省だ。いつまでもお世話になっていられない。
我が家と呼んでいいのか未だに迷う。三階建てハウスの一階はまだ何もない。
「それなあに?」
麗奈が興味津津でのぞきこんでくる。
「大正琴」
「うわー、えっ、琴ってこんな形なの?」
「琴もいろんな種類があるから」
「テレビとかで見たことがあるやつはこんなボタンみたいなの、なかったよ」
「
「じゅうなな……?」
そういえば十七弦箏はどこにあるんだろう。あれは借り物だったのかな? 今回押入れから出てきたのは大正琴のみだ。
「こういうやつ」
わたしはスマホで麗奈に琴の写真を見せた。
和琴(わごん)、一絃琴、二絃琴……。
「なんか色々あるんだね。でもこの大正琴はタイプライターみたい」
「そうだね、実は洋楽器らしいから」
「よう?」
「洋風ってこと。和楽器じゃないらしいw」
「琴なのに?」
「そうそう、初心者に弾きやすいようになったの」
「ほー」
麗奈は不思議そうな顔をしている。
「これ、どうするの?」
「とりあえず、久々に弾いてみるね」
ぽろん、ぽろん……下手すぎて笑えない。
「わぁすごーい!」
麗奈はお世辞なのか本当なのか拍手してくれる。
「何か活用できないかな?」
「えっ」
「わたしさ、少しやる気出てきたから何かしてみようと思って」
あまりにも漠然とした意気込みだ。
「うん、興味あることはどんどんやったらいいよね!」
麗奈は基本、何でも肯定してくれるのでありがたい。
この漠然とした意気込みをどうすりゃいいか、この時はまだ宙ぶらりんだった。