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#27.最後の一体とは限らない



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 ジョージがクリッパーバンをとばし、大急ぎで駐車場から離れる。

 スクラップ同然に大破してたのにエンジンは快調、ちゃんと走っている。


 途中、自販機のところでクマちゃんを回収した。

 自販機の残骸の影に隠れていたヤツは、ミニバンが停まってドアが開くや、さっと飛び込んで来た。


「そうだ、オレのスマホは──」


 オレの言葉が終わらないうちに、クマちゃんがスマホを差し出した。自分が入っていた紙袋も回収するあたり、抜け目ないヤツだ。


「ありがとう」


 お礼を言うと、クマちゃんは、プラスチックの眼を輝かせ、ドヤって胸を反らした。


「まんま魔法少の変身シーンを拝めるとは…! ああ動画撮っておくんだった!」

「盗撮なんかしたらミナに成敗されるぞ?」


 ハンドルを握りながら大興奮のジョージに、オレはそっと忠告した。と言いながら、オレもミナのヌ…もとい、変身シーンが脳に焼き付いていたのだけど。


「ふたりとも、何をそんなに興奮しているのだ?」


 後席からミナが言う。


 お約束の変身シーンを見たから…と、つい言いかけて、


「それはさておき、あれはどういう仕組みなんだ?」


 質問に言い直した。


「剣と鎧に装備召喚の魔法を掛けておいたのだ」

「あ、いつか装備に魔法かけていた。あれか!」


 思い出した。

 探索に出る前、ミナが甲冑と剣に魔法をかけていた。

 そういや、その後「今回は備えがある」と言っていたっけ。


「じゃあ、さっきまで着ていた服は?」

「これと入れ替わりにハジメの家にある」


 バックミラーの中、ミナが自分の甲冑を指差して言った。


「アポートではなく、入れ換え型のテレポートか!」


 と、ジョージがまた興奮する。


 前にジョージとみた古いSFアニメにあったな。テレポートは空間転移ではなく、物質と物質を入れ換えるというのが。ミナの変身──装備召喚も同じようなものらしい。


「一方通行っていうのは、そんな理由があったんだ」

「うむ。だから着替えを用意してある」


 と、ミナは後席で胸当てブレストプレートを外しにかかった。


「車を停めます!」


 キキィーッ! と、ブレーキ音を立ててグリッパーバンが急停止した。あやうく後ろにいた車がぶつかりそうになる。

 路肩に寄せたクリッパーバンの横を、文句のクラクションを鳴らして後続車が通りすぎていった。


「どうした?」

「姫はお気になさらずに!」

「オレたちは外にいるから、ゆっくり着替えて」


 首を傾げるミナに、ジョージとオレは急いで車から降りた。


 変身シーンを見ておいて、今さら着替えなんかと思うかもしれないけど、アレはアレ、コレはコレである。ミナみたいな美少女が、目の前でお着替えされたら困ってしまう。


「姫には羞恥心がないのか?」

「オレもそう思うことがある」


 ……いや、ないわけじゃないな。

 いつか、腕を組んでオレがパニクった後、ミナも照れていた。


「多分、姫だし、戦士だし、下着を見られるくらいは気にしないって感じじゃないかな」


 お姫さまってメイドが着替えとか風呂とか手伝ったりするイメージがある。またミナの話しからすると何度も戦場に出ているという。戦場とか軍隊とかにプライバシーはないからな。


 そんなことをジョージと話していると、ミニバンのドアが開き、


「待たせたな」


 ジャージ姿になったミナが現れた。髪はブロンドでツインテ。オレにとって見慣れたミナの姿だった。



     2



 車に乗り込んで、今後のことを相談する。


「あの魔物──グリムリは死んだんだよね?」

「ああ、間違いない。しかし〈ゲート〉がある以上、また別の魔物が現れるやもしれぬ」


 ミナが答える。


「ヤツが最後の一体とは限らない…ってヤツか」


 ハンドルを握るジョージが嬉しそうに言う。一度言ってみたかったんだな、このセリフ。


「なるべく早く〈ゲート〉を見つけ、閉じねばな」


 一方、ミナの声は真剣そのものだった。


「〈ゲート〉を閉じるってどうやって?」

「〈ゲート〉となっているマナウェル──魔力を湧出する井戸を処理するのだ。不安定なもの故、破壊したほうが早いかもしれぬな」

「その〈ゲート〉を破壊したら姫は…!」

「そなたらとはお別れになるな」


 バックミラーの中で、ミナがさびしそうに笑って言う。


 そうだ。そうだった。

 〈ゲート〉を見つけるのは、ミナが元の世界に還るためだ。そして〈ゲート〉を閉じれば、ミナとは二度と会えなくなる。

 そう思っただけで、なんか胸が苦しくなってきた……。


「〈ゲート〉は閉じなきゃダメなのかな? 魔物がこっちに来ないよう結界とか張ったりとかは?」

「できなくはない。だが〈ゲート〉の存在は魔物以上に危険なのだ」

「危険って?」

「私の世界とハジメたちの世界、どちらかが滅びることになる」

「「ええっ!?」」


 オレとジョージが同時に声を上げた。

 驚いた拍子にジョージがまた急ブレーキをかけ、ミニバンが停止した。


「滅びるって、マジで?」

「二つの世界が〈ゲート〉で結ばれると、魔力の流入が起きる。高いほうから低いほうに流入する魔力は、魔力の低い方の世界を侵蝕し、ついには崩壊させてしまう。個人でマナウェルを作ること、〈ゲート〉か禁忌とされる所以だ。〈ゲート〉は世界を滅ぼすのだ」


 そんなことが…!


「ミナからみて、どっちの世界が魔力が低いと思う?」


 おそるおそる、オレは尋ねた。


「……こちらの世界だ。〈ゲート〉を閉ざさぬ限り、いつかこの世界は滅びる」


 ミナの答えに、オレとジョージは声も無かった。


 とんでもないことになった。

 単にミナが還る、還れないの問題じゃない。この世界が滅びるおそれがあるのか…!


「そう深刻になるな。今日明日、世界が滅ぶということではない。何年、もしかしたら何十年か先のことだ」

「なんだ」

「ビビったぁ…!」


 オレとジョージは大きく息を吐いた。


「だが、放置しておくのは危険だ。世界の崩壊、その前兆ともいうべき異変でも、大きな災害が起きる可能性があるからな」


「発光現象やUFOの記事には注意しようぜ」

「ああ」


 何も変わらないいつもの街並み。

 この街が、いやこの世界が終わる……。

 それを防ぐことができるのは、オレたち三人だけなのだ。


 しばらくして、オレの家に着いた。


「せっかくだ。メシ食ってけよ」


 車を降りたところでジョージに言う。


「おお、それは有り難い」

「コメか? 夕食はコメを食べるのか?」


 ジョージ、そしてミナが言う。


 そんなに楽しみにしてもらうと、嬉しくなってくる。

 じゃあ晩メシは何を作ろうかな。


 世界の危機は深刻だが、腹が減っては戦はできぬ、だからな。


 ポケットから玄関の鍵を取り出した時だ。


「あらあらハジメくん、お出かけしていたの?」


 という声が、後ろからかかった。


 振り向くと、赤坂のおばばだった。


「おや、外国の娘さん?」


 ミナを見て、おばばが目を丸くする。


 マズい! おばばにミナが見つかってしまった!

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