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#25.探索は二人一組(ツーマンセル)で



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 13時ちょっと過ぎ。

 ミナ、オレ、ジョージ、クマちゃんは、ジョージのクリッパーバンに乗って魔物討伐に出発した。


「まさかリアルで姫騎士パーティに加わるとはな…!」


 ハンドルを握るジョージが静かにはしゃぐ。


「ミニバンで魔物討伐に行く姫騎士なんて、ちょっとないだろうな」


 助手席でオレが言う。その姫騎士はというと──


「これがジドウシャなるものか! 馬車より静かで乗り心地が良いのだな!」


 と、後席から身を乗り出して、大いにはしゃいでいた。


 ちなみにミナの装備は、ペンギンの絵が描かれたTシャツの上にショート丈のライトブルゾンを着て、下はデニムのホットパンツと黒のニーハイである。あと、変装のため魔法で髪を黒く染め、ツインテに結っている。


 尚、〈軍師〉ジョージは、アニキャラのシャツを着たメガネの太っちょ。助手席のオレはジージャンとジーンズ。

 姫騎士の魔物討伐パーティというより、ヲタサーの姫とその取り巻きみたいだ。


「舵輪と踏み板で動かすのか。横の取っ手は何だ?」


 興味津々、ミナが後席から身を乗り出して聞く。


「これは走り方を選ぶものです。前進・後退、停止などをこれで決め、アクセルという踏み板を踏む強さで速度を調節します」

「よくできておるのだな!」


 ミナはエアコンや電動ウィンドウ、カーナビなんかにも質問し、一々感心したり、興奮したりしていた。


 しかし駅に近づくと、ミナの顔は真剣になった。


「適当に走らせてくれ。できれば邪魔にならない程度に、ゆっくりと」

「御意」


 ミナの指示にジョージは応え、ミニバンで南口周辺を巡回する。

 後席のミナは、目を半目に閉じて魔物の気配を探った。


 ……ヒマだ。


 こうなるとオレはやることがない。

 ミナの邪魔になるからジョージとダベることもできないし。


「イッチも気配を探ってみたらどうだ?」

「気配を探るってどうやるんだ?」

「違和感を探すんだ」


 後席からミナが言う。


「違和感?」

「そうだ。意識を集中するのではなく、広げるのだ。見慣れたもの、当たり前にあるものの中に、異なるものはないか、それを探すんだ。ハジメはこの世界の生まれだ。私よりも分かるかもしれぬぞ」

「やってみるよ」


 ミナに言われ、オレも魔物の気配を探ってみた。


 しかし……ミナの言う違和感というものが感じられない。


 霊鎖を解いたといっても一つだけ。グリムリはステルス能力が高い魔物だというし、オレ程度ではまだ無理なのかもしれない。


 そんな時間が一時間は続いたろうか。


「やはり、この中にいては気配が感じ取れないな。外に出て探そう」


 無念そうにミナが言った。


 クリッパーバンは都道を走っているところで、ちょうど大きめの駐車場が見えて来た。

 駐車場に車を止めると、


「二手に分かれて探そう。私はジョージと。ハジメはクマちゃんと頼む」

「光栄です! 姫!」

「こいつとぉ?」


 ジョージとオレは同時に声を上げた。


「私はとやらの使い方は分からぬでな。二人で連絡を取り合ってくれ」

「オレたちは通信兵か」

「何を言うイッチ。情報と通信はいくさの要だぞ」


 がっかりするオレにジョージが言った。

 お前はミナとペアだからいいけど、こっちはヌイグルミだぞ。


 クマちゃんはオレにいつかの紙袋を差し出すと、その中に入り、「とっとと運べ」というふうにオレを見た。


 偉そうに…! とムカついたけど、コイツはグリムリを撃退した実績があるからな。


「連絡はふたりに任せる。一時間後、またここで落ち合おう」


 というわけで、嬉しくない一人二組ツーマンセルで魔物捜しがはじまった。




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 クマちゃんの入った紙袋を下げて、街の通りを歩く。


 ミナとジョージ組は駐車場からみて駅のほう北側を。オレとクマちゃんは南のほうを担当している。


 最初のうちはジョージと


「こちら繁華街。異常ナシ。オーバー」

「こちらハジメ。第一小学校前。異常ナシ。オーバー」


 などと熱心に(?)スマホのメッセージでやりとりしていたけど、でも、いつの間にかその間隔は長くなっていた。


 最初の一時間が過ぎ、駐車場で一旦合流したオレたちは、今度は東西に分かれて捜索することになった。


「なんか感じるか?」

「何も」


 ジョージからのメッセージも、返すオレの返事も短く、投げやりなものになってゆく。


 正直、飽きてきたのだ。

 映画とかアニメとかだと、こういう地味で退屈なシーンはカットされるけど、当事者は延々と同じ作業をし続けねばならない。

 おまけにオレの相棒はクマのヌイグルミ。会話すら出来ないからボッチと同じだ。


 ジョージはいいよな、ミナと一緒で。

 可愛いし、リアル姫騎士だし、あのスタイルは眺めているだけで退屈なんかするヒマもない……。


 ……ちょっと不安になった。


 ジョージは頭がいいけど、リアル姫騎士と一緒でテンションが高かったからな。


 よくあるヲタク像という姿のジョージと、グラドル並のスタイルを持つ美少女が並んで歩いているだけで目を引く。

 そしてジョージのミナに対する言葉遣いだ。「姫」「御意」とか言っていたら、目立つに決まっている。


 ジョージに注意しておいたほうがいいな。


 スマホを取り出して見ると時間は16時少し前だった。そろそろ合流ポイントに戻る時間だ。話しはその時でいいか。


 スマホで位置を確認して、住宅街から駐車場のある都道へと向かう。

 しばらくして都道に出た。合流ポイントの駐車場が三〇メートルくらい先に見える。


「次も空振りだったら、今日は撤収だな」


 なんとなく空を見上げると、まだまだ明るい陽の光が、都道の上を走るモノレールの高架を照らしていた。

 夕方というにはまだ早いけど、風はちょっと冷たい。その風の中に、街路樹の青いにおいが感じられた。


「ん?」


 何か、ムズムズする。

 花粉症? オレはなかったはずだ。それに第一の霊鎖を解いたオレは、そうしたものには無縁なハズだ。

 それとも感覚が鋭くなったからか?


 ──見慣れたものの、見知ったものの中に異なるものはないか、それを探すんだ。


 もしかして、これが魔物の気配ってヤツか? 近くに魔物が?


 グリムリが取り憑いた電動ハンマが迫って来る姿が頭に浮かんだ。


「…っ!」


 左右、そして後ろ振り返ってみる。

 変わったものはない。でも……。


 ──ヤツは機械に取り憑き、それを操るんだ。


 ここは都道。たくさんの車が走っている。

 なんで気がつかなかったんだ。ここは機械の凶器だらけじゃないか!


「お、おおお落ち着け」


 車道に注意しながら、オレはジョージに「魔物の気配」のメッセージを送ろうと、スマホを取り出した。

 震える指でホームボタンを押すと──


 ──スマホの画面に、あの魔物の眼が現れた

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