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#24.一緒にしないのが普通では



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 朝の修行が終わり、ミナと交代でシャワーを浴びる。


「待たせたな」


 茶の間に戻ってきたミナ。ジャージから、Tシャツとホットパンツといういつもの格好に着替えている。

 まだちょっとだけ濡れているブロンドの髪。それがなんともセクシーである。


「じゃあオレも」


 着替えを持って脱衣所へ。汗で濡れたジャージと下着を脱いで洗濯機に入れる。


「あれ?」


 そこで、ふと気がついた。


 洗濯だ。

 彼女が来て何日も経っているけど、服の洗濯について教えてなかったぞ。


 まさか同じ下着を着続けている? それとも、汚れた下着は寝室に放置してるとか?


 ダメだ! 美少女がそんなことダメだろ! 

 オレは大急ぎでシャワーを浴びると、服を着てミナのいる茶の間に。


「ミナ! 汚れものはどうしているの?」

「汚れものだと?」


 ミナはかわいく首をかしげた。


「こちらに来て、まともな戦いをしておらぬ故、穢れを落とす必要はなかったのだが」

「けがれ?」


 汚れとはニュアンスが違うような。


「具体的には血だな。相手によっては怨嗟の念もあるが」


 ミナの言う「けがれ」とはそっちのことか。怨嗟の念とかあるのが厨二なファンタジーっぽい。


「そっちじゃなくて、お風呂とかで着替えるでしょ。それまで着ていた服はどうしているの?」

「洗浄しているぞ。まさか着の身着のままだと思っていたのか?」

「洗浄? 洗濯ではなくて?」

「同じことだろう? こちらの世界では違うのか?」


 なんか話しが通じてない。オレはミナを脱衣所に連れて行って説明した。


「これが洗濯機といって、服を洗う機械だ」


 ドラム式の洗濯機を見せて説明する。一台で洗濯と乾燥、両方ができるタイプである。


「これはそういう機械だったのか」


 ミナが目を見張る。


「中で水が回り、服を洗うのだな? これは面白い」


「で、ミナのいう洗浄って?」

「そうだな」


 そう言うと、ミナは洗面所のタオルを手に取り、歯磨き粉をその上に落とした。


「これを汚れものとする」


 ミナがタオルを放り上げ、人差し指と中指を揃えた左手を向けた。

 するとタオルが三つのリングに囲まれ、空中で停止した。よく見るとリングは魔法陣で、まるで原子核モデルみたいにくるくると回っている。


 魔法陣は数秒で消え、タオルが落下する。それをミナが空中でキャッチした。


「見てみろ」


 渡されたタオルを見て驚いた。


 歯磨き粉が消えている。それだけじゃない。使ったタオル特有のにおいも消えていた。


「我が帝国では、水を使った洗濯は何百年も前に廃れている」


 豊かな胸をそらしてミナが言う、ちょっと自慢げだ。


「すごい…まさに魔法だ」


 これに比べたら、水を使った洗濯機なんて原始的だ。


「我らの世界に、こちらより優れている技術もあるのだな」


 むう、なんか悔しい。

 でも、ドヤるミナがかわいいから、まあいいや。なんて思っていたら、


「そうだ。これからはハジメの服も私が洗浄しようか」


 とんでもないことを言い出した!


「そんな…ダメだよ!」


 帝国の皇女さまに、オレのパンツなんか洗ってもらうわけにはいかない。おそれおおい、ていうかおそろしい。


「世話になっている礼だ。そのくらいさせてくれ」

「ダメだって!」


 年頃の娘さんなら、洗濯物は父親とか兄弟と一緒にしないで! っていうのが定番じゃないか。

 帝国の姫云々をおいといても、女の子に下着を洗ってもらうのは抵抗がある。


 ミナにあきらめてもらうまで、この後数十分もかかった。




     2



「なんだ、元気そうじゃないか」


 洗濯のあれこれが片付いて間もなく、車でジョージがやって来た。


 昨夜、魔法修行をショートカットしようとしたら死かけて

動けないってメールで伝えたので、食料を買ってきてくれたのだ。


「仕事休ませて悪いな」

「イッチの見舞いだと言ったら、速攻オッケーだったぞ」


 ジョージのミニバン──クリッパーバンのバッグドアを開け、五キロ入り無洗米や乾麺、缶詰などが入ったダンボール箱を抱えて運ぶ。


「霊鎖を解いた効果が出ているな」


 米などが入った段ボール箱は七、八キロはあるだろう。それをオレが軽々と持ち上げ、運ぶのを見てジョージが言った。


「このくらい軽々だぜ」


 ふふん、と笑って応える。


 以前なら持ち上げる時に「よいせっ、と」かけ声がいるくらいの重さだ。でも今のオレには、キャベツ一玉持つのと変わらない程度の重さだった。


「いや、そっちじゃなくて頭。後退していた生え際が戻っているぞ」

「そっち?」


 いや、ある意味、身体能力が上がったことよりも嬉しいけどさ。ていうか、そんなに後退していたのか。


「食料なら、ウーバーでもネットスーパーでも使えばいいだろうに」


 庭から縁側に向かいながらジョージが言う。玄関より縁側から運び入れたほうがキッチンに近いのだ。


「それ考えたんだけど、置き配OKのネットスーパーでも、初回は対面必須でさ。オレ、今朝までマジで動けなかったし」


 近頃は配達員がSNSでおかしな投稿することもあるから、ミナを受け取りに出したくなかったんだ。まさかクマちゃんに受け取ってもらうわけにもいかないし。


「姫は魔法で変装できるんだろ? それじゃダメなのか?」

「あ……」


 言われてから気づいた。その手があった。


「具合の悪い時は、良い知恵は浮かばないか」


 硬直したオレにジョージが言った時、ミナが縁側に顔を出した。


「ジョージ、世話をかけるな」

「なんの。姫のため、親友とものためとあらば、お安い御用です」


 芝居がかって応えるジョージ。ノリノリでこの状況を楽しんでいるな。


 キッチンに食材たちを運び、簡単に整理した後、ジョージが買ってきてくれたコンビニのサンドイッチで昼食となった。


「昼食はコメではないのか?」

「米は炊く前に、しばらく水につけておく必要があるんだよ。じゃないと美味しく炊けないんだ」

「なるほど」


 残念そうにいうミナ。米飯に期待していたらしい。よし、次はがんばろう。


「調べてみたら、駅前でおかしなことが起きていたぞ」


 昼食後、ジョージがタブレットを見せた。


 それはSNSに上げられた動画だった。

 スマホで撮影された縦長の画面では、駅の改札にある小さなドア──フラップドアというらしい、がバタバタと激しく動いていた。

 別の動画は交差点の信号機だった。狂ったみたいに激しく、デタラメに点滅している。


「あの交差点だ。信号を付け替えてたのはこのせいか」


 エリカさんと出くわし、暴れるクマちゃんを誤魔化そうとアドリブの腹話術をした、あの交差点だった。


「他にもオフィスのPC、防犯カメラ、エレベーターなんかの故障や誤作動が頻発しているらしい。ネットではサイバー攻撃との噂も流れているが……」

「グリムリの仕業だな」


 ジョージの言葉に続けてミナが言う。


「こちらの機械に慣れる練習でもしているのだろう」


 オレは、電動ハンマに取り憑いたグリムリを思い出した。


「だとしたら、ヤツはかなり上手く憑依できるようになっているよ」

「犠牲者が出る前に退治せねばな」


 ミナとオレは目を合わせ、うなずきあった。


「もう一つ、気になるネタがある」


 そう言ってジョージが見せたのは、色んなSNSのスクショだった。


「謎の発光現象やUFOを見たというカキコミをいくつか見つけた。バズるほど話題になっていないが、いずれも太刀川駅南側のようだ」


 駅の南側といえば、ラブホ…じゃない、ミナがこちらに現れた場所だ。発光現象やUFOは〈ゲート〉と関係があるのかも知れない。


「まずは駅南側を中心に探すとするか」


 かくしてオレたちは、ジョージのミニバンで南口へと向かった。

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