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#21.気になる一言



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 ぐぅうう…、オレの腹が鳴った。


 気がつけば19時を大きく回っていた。今日もハードな一日だったから、身体がカロリーを求めているのだ。


「しまった。食材がないな」


 ジョージの店からの帰りに食材を買うつもりだったけど、色々あってすっかり忘れていた。

 パンとパスタはまだあるけど、おばばから貰った野菜は使いきっていた。残っていたのは、玉子とベーコン、ソーセージくらいか? でも三人ぶんとなると……。


「じゃあピザとか取ろうぜ」


 と、ジョージが提案した。


とはなんだ?」


 ミナが興味津々、という顔で聞く。


 オレはジョージと顔を見合わせ、「よし!」と笑い合った。

 異世界の皇女さまに、日本のピザをくらわせてやろう!


 てなわけで、ノートPCでピザを注文した。色んな種類があるといいだろうと四種のピザにする。支払いはカードですませた。


 届くのを待つ間、ジョージの店で買った防犯カメラをミナに見せることにした。


「ウチの店にあったのはコイツだけだが」


 ジョージが出したのは、Wi-Fiでスマホに映像を送れるタイプだ。


 カメラを充電して、オレのスマホに専用のアプリを入れる。

 準備が整い、ミナに披露する。


「これはスマホに映像を送るタイプだけど、レコーダーに録画されたり、ネットワークで警察につながっているものもある」


 説明しながら防犯カメラをちゃぶ台に置いて、入り口の方に向ける。するとスマホの画面に、茶の間の入り口が映し出された。


「ほう、このように映るのか」


 ミナがスマホに映るカメラの映像を見てつぶやく。その画面に、ジョージがひょっこり現れピースサインをした。


「ふむ……」


 ミナがカメラに手をかざすと、カメラ本体にはり付くように小さな光る魔法陣が現れた。

 ぎょっとなるオレとジョージに、


「壊したりせぬ」


 ミナは笑うと、視線を魔法陣に戻した。


「微かな力が出ているな。これがとやらに届くのだな?」


 ミナが目を細めて言う。


「電波が見えるの?」

「見える…というのとは違う。感じるのだ」


 霊鎖を解放した者が得られる超感覚だろうか。それとも魔力は電磁波の一種なのか?


「他のカメラも似たようなものなのか?」

「仕組みは同じだ。無線か有線かの違い──ミナの言う、力を飛ばすのと、こういう線を通して伝えるかの違いがあるけど」


 オレはTVのケーブルを見せて言った。ちなみに、ミナが一刀両断にしたTVの後継はまだ届いていない。届いたらすぐ接続できるよう、ケーブルはそのままにしてあるのだ。


「ふぅむ…ジョージ。私と代わってくれ」


 一瞬、魔法陣が現れ、ミナの姿が消えた。隠形ステルスの魔法だ。


「イッチ!」


 オレの横に来たジョージが、スマホを指差して叫んだ。


「これは!」


 肉眼で見ると茶の間の入り口には誰もいない。しかしスマホのカメラ映像には、入り口の前にいるミナが映っていた。


 画面の中のミナは、ジョージを真似てピースサインしている。その顔は真剣で、ピースとちぐはぐである。


 でも、それがなんかかわいい。これは録画せねば。


「隠形の魔法は効かないか」


 ステルスを解いたミナが、スマホに映る自分の映像を見て言った。


「魔法機械なら欺けるのだが…こちらの機械には魔力回路がないためか?」


 ミナがまたカメラに魔法陣を出して分析し、首をひねる。


「魔法で電子機器を欺く方法か……」


 ミナと一緒に、ジョージも考え込む。そこに玄関の呼び鈴が鳴った。ピザが届いたのだ。


「作戦は後で考えよう。まずは食べようぜ」


 と、オレは玄関に向かった。



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「ほう、これがこちらの世界のピザか」


 ボックスを開いてピザを目にしたミナが言った。


「あれ? さっきミナはピザを知らないって言わなかった?」


「霊体の翻訳だ。同じような食べ物は私の世界にもある。現物を見たから今はピザと翻訳されているのだろう」


 オレはジョージと顔を見合わせた。


「なんだ、ミナにはじめてのピザをと思ったのに」


 残念がるオレたちだったが、


「いや、とんでもない。似たものはあるが、こんなに多種多様な具材を乗せたものではない。まるで祭りのように賑やかではないか!」


 ミナは早く食べたくてウズウズしている。


「では、姫からお先に」


 ジョージに促され、ミナが最初に取ったのはトマトとチーズのスタンダードなものだった。


「これはあちらにあるピザに近いな」


 オレとジョージが見守る中、ピザを一口食べたミナは、


「おお、これは美味! こちらのチーズはなんとも濃厚だ」


 と、笑顔になった。

 オレとジョージは「大成功!」と、ハイタッチした。


 続いてミナが食べたのは、クリーミーツナコーンだった。


「これは魚のようだが? 食べたことがあるようなないような……」

「ツナです。日本ではマグロと言います」


 ジョージがマグロの画像を標示したタブレットを見せた。


「そうだマグロだ! こちらではこういうソースで食べるのだな」


 うむうむとうなずいたミナは、次にもち明太に手を伸ばした。


「むむっ! これはなんだ? 魚卵は分かるが、この白く四角いものは?」


 青い目を見開いてミナが叫ぶ。


「モチというものだよ。もち米という米の一種から作ったものなんだ」

「なんと! これがコメというものか。こんなに美味だとは知らなかったぞ!」


 オレの解説を聞いたミナは、ニコニコしながらもち明太を食べた。今回、これが一番気に入ったらしい。


「姫の国にもお米があるので?」


 ジョージが尋ねた。


「ああ、南方では小麦とともに食されていると聞く。この国でもそうなのか?」

「この国では米が主食です」

「そうなのか?」


 ミナがオレを見た。


「ミナの国は小麦文化だと思ったから、パンやパスタを食べてもらっていたんだ」

「食べ物にまで気を遣ってくれていたのか。ありがとうハジメ」


 ミナが礼を言う。


「しかし、気遣いは有り難いが、郷に入っては郷に従えという。遠慮は要らぬ。コメも食べさせてほしい」


 お姫さまだから好き嫌いがあるかと思ってたけど。オレの思い込みだったようだ。


「ようし。では遠慮なく日本の食べ物をどんどん食べてもらうぞ!」

「うむ、楽しみだ」



     3



「このニホンという国はおそるべき国だな」


 食事が終わった後、ミナが言った。


「様々な地域の食材や料理が食べられるとは。どれほど広大な地域を支配しているのだ?」


 さっき日本では世界中の料理や食材が食べられる、ということを話した。それを大きな領土を持っていると思ったみたいだ。


「支配というわけではありませんが」


 と、ジョージがタブレットで世界地図などを出して講釈をはじめた。


「なんと! 帝国ではなく通商で栄えている国なのか!」

「技術と文化か…統治の仕組みは、我らの世界と大きく異なるのだな」


 ジョージの説明に、ミナは驚き、感心してる。


 さすがジョージ。登録者数三〇万の動画配信者は伊達じゃない。ただ地理を説明しているだけなのに面白く、聞き入ってしまう。でも……。


 ……なんか仲間はずれな気分。


 こうなるとオレはお茶を淹れるくらいしかやることがない。

 そんな時間がどれだけ続いたか。


「やべ! もうこんな時間だ」


 ジョージがタブレットに標示された時間を見て叫んだ。

 時間は22時を大きく回っている。


「ジョージ、そなたのおかげで、こちらの世界を多く知ることができた。そなたは、我らにとって軍師のような存在だ」

「軍師…! かぁあああ! 光栄です! 非才の身ですが姫のため、微力を尽くします」


 眼をウルウルさせて感激するジョージ。


「頼りになる男だなジョージは」


 玄関でジョージを見送った後、ミナが言った。


「うん、オレの親友だからね」


 そう答えながら、オレの心には、ミナが言った「軍師」という一言が引っかかっていた。


 ジョージが軍師なら、オレは何なんだろう。


 そんなことを考えながら茶の間の先にある奥の間に入った。


 クマちゃんが放置されていた、多分、仏間だった六畳間だ。

 茶の間で寝るのは何かとよろしくないので、ここをオレの寝室にしたのだ。


 ミナにとってオレはどんな存在だ?

 ミナの付き人、コックか?

 軍師と比べるとイマイチ…いやイマ三つも四つも下だよな。


 なんかジョージに嫉妬している自分がイヤだ。


 ジョージが軍師ならオレはミナの騎士、近衛騎士ロイヤルガードになりたいな。

 って、そんなのムリだよ。第一の霊鎖も解けないのに……。


「……そうだ」


 ドタバタしてすっかり忘れていた。

 ジョージの店で、防犯カメラと一緒にインパクトドライバーを買ったのだ。

 電動のドライバーで特殊鋼のドリルも装着できる。


 あれなら霊鎖を解けるかもしれない……。


 騎士はムリでも、第一の霊鎖を解ければ、ミナの役に立てるはずだ。

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