目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
#20.一通り説明したけれど


     1



「ミナ、こいつがジョージ。ジョージ、彼女がミナだ」


 クマちゃんが魔物を撃退した後、オレはジョージの車で新居へと帰った。

 魔物に遭遇したことと、ジョージをミナに紹介するためである。


「ラファナード帝国の第七皇女、ミナ・リリア・ラファナードだ。ミナと呼んでくれ」


 ミナの姿を見た途端、ジョージは


「信じられない!」


 と、絶叫した。


「……この服装では信じられないか?」


 ミナが自分を見下ろして言った。

 今、彼女は、ミリタリー系の迷彩柄Tシャツに白のホットパンツという姿だった。髪は元のブロンドで、やはりツインテにしている。


 たしかに、この姿で異世界の帝国皇女だと言っても説得力がない。しかし、


「異世界からの姫騎士! 巨乳でかわいくてツインテール! 言い切り口調なのに萌えボイスなのは意外だが…! だが、それもいい!」


 そう、ジョージの「信じられない」とは、ミナがあまりにもコテコテの姫騎士キャラで、それに感激したからだった。


「声に出して言うな!」


 あわててオレは注意した。


 ここに来る途中、一通りミナの説明はしておいたけど、実物のインパクトの前に、ジョージの理性が吹き飛んでしまったみたいだ。


 ミナを怒らせると、オレたちなんか家ごと一刀両断、木っ端微塵だと注意したはずなのにすっかり忘れてやがる。


「おおっと。オレとしたことが。姫騎士が実在したことに感激して、我を忘れてしまったぜ。──取り乱してしまい、失礼しました」


 そう言うと、ジョージはミナに深々と頭を下げた。


「赤坂 智です。ジョージと呼んで下さい」

「アカサカアキラなのに、ジョージなのか?」


 幸い、ミナは気を悪くした様子はなく、ジョージの名に興味を持った。


「ああ、それは、オレがコイツに似てるってことで、つけられたアダ名です」


 と、ジョージは持って来たタブレットで、その画像を出した。


「ブタではないか?」


 それは『ペッパピッグ』というアニメだった。


「おお、帝国にもブタはいるんですね。いかにも左様。この青い服がジョージです」


 と、ジョージが子どものブタを指差す。


「自分は昔からこの通りの体型でして、それで付けられたアダ名です」

「アダ名というより蔑称ではないか」

「まあ、そうですね」


 驚くミナに、ジョージは笑って応えた。


「でもね、そこで怒って、その名で呼ぶなぁって言い返したら相手の思うツボです。調子に乗ってエスカレートしますからね。だからオレは、はいよ! ジョージだよ! って返すようにしたんですよ」

「なんと……」


 ミナは青い眼を大きくして感心した。


「ついでにアイコンやハンドルネームに使うようにしたら、もう誰もオレをからかうことはなくなりましてね。気がつくと、自分でもこの名とキャラが気に入ってしまった…てなわけです」


 タブレットに自分の動画チャンネルを標示して見せ、ジョージは笑った。ブタのジョージがアイコンのDIY動画チャンネルの登録者数は30万人を越えている。


「ジョージ、そなたは賢く、したたかで、ユーモアもあるのだな。正に賢者。類は友を呼ぶというが、やはりハジメの友だな」

「お褒めに預かり、恐悦至極です」


 と、かしこまって頭を下げたジョージだったが、


「やべぇ、イッチ! こんな美少女にほめられて、オレ、泣きそうだ!」

「って、抱きつくな! 鼻水をつけるな!」


 せっかくのイイハナシなのに、コイツは…!


 そんなバカなオレたちを、ミナは呆れることなく、微笑わらって見ていた。



     2



「その悪魔──魔物はこんなヤツでした」


 ジョージがタブレットに二枚の画像を見せた。さっき見た魔物と似た画像を検索したのだ。


 一枚目は、ノートルダムとかに飾れているガーゴイル像。二枚目は、映画『シンドバッド虎の目大冒険』のホムンクルスだった。


 どっちも細身の身体に鳥みたいなクチバシ、コウモリの翼を持っている。


「全身がウロコに覆われていて、色は青緑? だったと思う」


 空に溶けるように消えた姿を思い出し、オレは補足した。


「なるほど。これは小魔グリムリだな」 


 画面を見つめながらミナが言った。


「小魔? ということは、大して強くないのかな?」

「うむ、戦闘力は大したことない。強大な魔物や、魔法使いに使い魔として仕えていることもある」


 オレの問いにミナが答えた。


「だが、隠形に長けていて、特に霊体化している際は高レベルの魔法使いでも発見は困難だ。何より厄介なのは、魂のないものに取り憑く能力だ」

「魂のないもの…とは?」


 ジョージが尋ねる。


「人形や死体など、人や動物の姿をした物。それに魔法機械だ。こうした器物にも存在の記憶となる霊体があるが、生き物のような魂はない。故に器物は自ら意思を持たず、動くこともない」


 ミナの世界の魔法科学だ。あっちでは生物と物質をそのように分けているようだ。


「グリムリは霊体化して器物に入り、擬似的な魂となることで操り、対象を生き物のように動かすことができるのだ。数多の魔物を葬った無双の英雄ゴゾンは、このグリムリによって殺されたと伝わる。病死した愛娘を抱きしめた際、娘の遺体に取り憑いたグリムリに喉を咬みきられた、と」

「物質に取り憑くbotみたいなものか」


 ジョージがうなる。


 オレは、生き物みたいに襲ってきた電動ハンマの姿を思い出した。


 人間か動物の姿をしたもの。そしてミナの説明からすると機械のすべてが、ヤツの身体になり得るということか。


 マネキンや立体看板、そして機械と名のつくものすべて。

 そんなもの、二一世紀の日本にはあふれかえっているじゃないか。


 英雄殺しの小魔グリムリ。

 ヤツが大きな事件を起こす前に、オレたちはヤツを見つけ出し、倒すことができるのだろうか。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?