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#19.百聞は一見に…なんてレベルじゃない!



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 ジョージこと赤坂あかさか あきらはオレの親友で、幼なじみだ。


 ヤツとは小学生の頃からの付き合いだ。

 オレは就職するまで実家のある三鷹に住んでいた。ジョージは隣の小金井市だったけど、小学校は同じだった。


 作品は忘れたけど、好きなアニメやマンガで盛り上がり、親友となったのだ。

 親たちも相性が良かったみたいで、円城寺家と赤坂家は家族ぐるみのつきあいとなった。

 以来、中学、高校、大学と、時にクラスや学校が別になってもジョージとのつき合いは切れることなく、今も続いている。


 中央線に乗って二〇分弱。東小金井駅で降りてしばらく歩くと、交差点に建つ平べったいビルが見えて来た。


 ジョージの一家がやっている赤坂金物店だ。


 金物店というと、鍋とかヤカンとか売ってる店のイメージがあるかも知れないけど、赤坂金物は大工道具、電動工具なんかを多く扱っている。

 子どもの頃、店に並ぶ大工道具や工具、チェーンソーやインパクトドライバーを見てときめいていたっけ。


 販売以外にも合鍵作り、ドアや窓の出張修理なんかもやっていて、ジョージが言うには「街のなんでも屋」である。


 店内に入ると、なんか懐かしい感じがした。

 そういや、何年もここには来ていなかったっけ。


 キラキラ光るスパナやレンチ。ツヤのないドライバーや黒鉄くろがねのドリルにうっとりしてしまう。

 いくつになってもこういう金属製品にときめくのはなんでだろうな。などと考えていたら、


「ようイッチ」


 すぐ横から声がかけられ、棚の向こうからジョージの太い姿が現れた。


「ちょっと買い物にな」


 今日のジョージは店番のため作業着を着ていた。


「パワーのある工具がほしいんだ。できるだけ強力なヤツ。あと防犯カメラ。工事不用のヤツ」

「ほほう?」


 じっとジョージがオレを見た。


「それと、相談があるんだけど……」


 ミナのことを話したいんだけど……さて、どこから話せばいいだろう?


 ──ファンタジーな異世界から来た剣聖の姫と同居しているんだ。


 なんて言ったら、頭おかしくなったのかと思われるだろう。

 納得してもらうにはどうすれば……。


「一緒に暮らしている女のことか?」

「うん、そう──って、なんでわかったの!?」


 頷いてから驚きの声を上げてしまい、オレはあわてて自分の口を両手でふさいだ。



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 幸い、店にはオレとジョージしかいなかった。


「ここじゃなんだ。工具を見ながら話しを聞こうか」


 そう言うと、ジョージは先に立って店の裏へと向かった。


「なんでわかったんだ?」


 ジョージの後を追いながらオレは尋ねた。


「おばばと一緒に行った時、玄関に新品のスニーカーがあった。イッチのものにしてはサイズが小さい。あとはお前のパニくり具合。妹とかならあんなにアセらないだろ」


 名推理、というよりさすがは親友と言うべきか。よくわかっている。


 ジョージの店の裏は、大きな倉庫になっていて、店頭に置けないサイズの商品が置かれている。


「パワーのある工具も、その女に関係あるのか?」

「あると言えばある…のかな?」


 霊鎖を解く裏技に使うのだ。ミナに関係なくはないけど。


「ウチで一番の火力というとこれだが?」


 ジョージが「よっこらせ」と出して見せたのは、両手でなければ持てない大型の電動ハンマだった。道路工事でアスファルトとかを砕いて穴を掘るアレだ。重量は十八キロもある。


「そこまでのはいいよ!」


 思わず股間を押さえて叫んでしまう。

 デリケートな部位のそばで使うのだ。あんなもの使って、うっかり手元が狂ったら、アレがミンチになってしまう。


「小さめのチェーンソー、いやそれも危ないな。インパクトドライバーがいい」

「なんだ。久しぶりに大物が売れると期待したんだがなぁ」


 と、ジョージが笑い、


「で、どんな女なんだ? イッチが同棲しているのは」


 あらためて聞いてきた。


「同棲じゃなくて同居だよ。そういう関係じゃないから」

「また強く否定したな。悪いのに捕まったんじゃないだろうな?」

「悪い子じゃないよ。ミナは皇女で剣聖だし。ピュアでプライドが高くて──」


 勢いよく話して、途中で気づいた。

 ジョージが「こいつ大丈夫か?」という顔でオレを見ている。


「信じられない話しなんだ。そうだ、まずはコイツを見てもらおう。百聞は一見にしかずだ」


 オレは紙袋の中からクマちゃんを取りだした。


「こいつはオレの霊体をコピーした、ヌイグルミのゴーレムなんだ」


 と、オレは地面にクマちゃんを置いて言った。しかしクマちゃんはぴくりとも動かない。


「ほら動け! 今朝の武術の型を見せてみろ」


 やはりクマちゃんは動かない。


「どうしたんだよ? 動けよ!」


 このクマ野郎、なんで動かないんだ? いやがらせか!

 そう思った時、気づいた。


 ──今度人前で動いたら、袋のまま、川に捨ててやるからな!


 さっきオレが脅したから、コイツは動かないのか?


「バッテリーが切れたんじゃないか?」


 かわいそうなものを見る眼でジョージがオレを見ている。 


「待ってくれ! ちゃんと説明するから」


 オレが叫んだ時だった。


 ぎゅいーん! というモーター音が鳴り響いた。


「え?」


 ジョージが地面に置いた電動ハンマが作動していた。


「バカな!」


 ジョージが叫ぶ。

 オレも目を疑った。この電動ハンマは、バッテリーも付けてなければ、コンセントも差してないからだ。

 おまけに、破砕用の矢──いわゆるドリルの部分まで着いている! さっきジョージが手に持って見せた時はついてなかったぞ!?


 ぎゅいーん! モーター音を上げ、電動ハンマがコンクリの地面の上を跳ね回る。


「わぁ!」

「ひぃいい!」


 跳びはね、暴れ回る電動ハンマに、オレとジョージは悲鳴を上げて逃げ回る。


 電動ハンマはまるで生き物みたいにオレたちを追いかけてくる。

 モーターの震動で跳びはねてるわけじゃない。そんな動きじゃないぞこれ!


 しゅるるっと、何かがオレの両足に絡みついた。蛇か? 違う、電動ハンマの電源コードだ。なんでコードが?


「わわっ!」


 コードのせいで足がもつれ、尻餅をついてしまう。

 おそろしいうなり声を上げて電動ハンマが迫って来る。


「あわわわ!」


 尻餅ついたまま逃げるが、すぐに壁際に追いつめられてしまった。


 オレ、ここで死ぬの? 


 ──その時だった。


 暴れ回る電動ハンマに茶色い影が飛びかかった。

 クマちゃんだ!


 クマちゃんの跳び蹴りが電動ハンマに炸裂し、十八キロもある電動工具が吹っ飛んだ。


 ガシャっ! と、すごい音を立てて電動ハンマがコンクリの上に転がる。

 プラスチック製の本体が割れ、中の機械パーツがはみ出している。ヌイグルミの蹴りではあり得ない破壊力だ。


 だが、オレが本当に驚いたのはその直後だった。


「ぎぇえええ!」


 という気味の悪い悲鳴が上がり、転がった電動ハンマから半透明の化け物が現れたのだ。


 ──翼のついた悪魔。


 そいつはそんな姿をしていた。

 全身が青緑色のウロコに覆われ、顔は鳥のようなクチバシ、背中にはコウモリの翼があった。


 そいつは叫びながら空へと飛び、半透明の身体は空気に溶けるみたいに消えていった、


「ありがとう、クマちゃん」


 パンパン、と手をたたいたクマちゃんは、「ドヤ」というポーズをとった。


 今のが、ミナが感じた魔物だったのか。きっとそうだろう。でも、どうしてここに?


 悪魔が消えた空を見上げ、オレがそんなことを考えていると、


「イッチ、今なら、何を聞いても信じるぞ」


 同じく、空を見上げたジョージが、呆然と言った。



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