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#07 一から教えるこちらのルール



 自転車を飛ばしてドラッグストアに行き、ジャージを買った。


 1DKから服も運んでいたけど、まだ段ボール箱から出してない。何より、ミナにオレが着ていた服を着てもらうのに抵抗があったんだ。


「これは動きやすくて良いな」


 安物の黒のジャージも、ミナが着ると安っぽく見えないから不思議である。

 それどころかキマって見える。

 スタイルが良いせいかなと思ったけど、彼女の姿勢が良いのが一番の理由だろう。


 ミナは姿勢がいい。すっと伸びた背筋はさすが剣聖である。それでいてカタい感じがなく自然体だ。

 実際の身長以上に背が高く感じられる。


 金髪のグラマーさんがジャージ着て畳の上に座っている姿は、やはり違和感バリバリだけど。


 とにかく、これで落ち着いて話せるな。


「この世界で暮らすにあたり、必要なことを教えてくれないか」


 冷えたお茶を飲み干してミナが聞いてきた。


「まず、この世界というかこの日本という国は法律が厳しい」


 オレはちゃぶ台の横に置かれた剣を指差し、


「こういう武器を持ち歩いちゃダメなんだ」

「武器なしでどうやって身を守るのだ?」


 憤慨したようにミナが言う。


「そのために警察があるんだよ」

「さきほど話に出た、この世界の騎士団だな」

「うん。泥棒とか強盗とか、悪いヤツらが出たら、警察に通報して捕まえてもらうんだ」


 オレはスマホを手に取ってミナに見せた。


「この国の人たちのほとんどが、このスマホを持っている。これで警察に連絡すれば、すぐに警官が駆けつけてくる。キミが剣を持って歩いていたり、乱闘とかしたらすぐ通報されるよ」

「むう…」


 ミナが両手を組んでうなる。


「キミは指名手配されているし、パスポート…身分を示すものを持ってないから、面倒なことになるよ」

「ここはそなたの国だ。そなたに従おう」


 すごく不満そうにミナが言う。ムクれた顔がちょっとかわいい。

 とにかく納得してくれて助かった。


 ほっとしたら、どっと疲れが押し寄せて来た。


 オレは寝室にと考えていた部屋をミナに提供し、自分は茶の間で寝ることにした。来客用の布団、買い足しておいて良かったよ。


「この国では布団を床に敷くのか」


 興味津々という顔でミナが言う。


「今は家によるかな」


 と、答えかけて、


「もしかして、ベッドのほうが良かった?」


「いや、これはこれで快適そうだ。郷に入れば郷に従え、だ」


 楽しそうに言うミナ。

 それにしても、よくそんなことわざを知っているな。


「それじゃ、お休み」

「ああ、お休み」


 ミナの声に送られて、オレは部屋を出た。


 茶の間で布団を敷きながら、ふと、「お休み」と誰かに言うのは何年ぶりだろう、と思った。


 なんか嬉しいな。

 ちょっとくすぐったいけど。嬉しい。


 電気を消し、布団に入る。すぐにまぶたが重くなる。その時──


 ──ミナのTシャツ姿が目に浮かんだ。


 たちまち胸がドキドキして来た。


 彼女、ノーブラだったんだよな。


 あんなシチュエーション、二次元だけのもので、現実にお目にかかるとは思わなかった。


 続いてバスタオル一枚巻いた姿が思い出された。

 豊かな胸の膨らみ。まぶしいナマ足……。


「ね、眠れん……!」


 身体は疲れているのに、まるで眠れない。


 オレは布団の中で、悶々と寝返りを打ち続けた。


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