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#06.人生で一番恥ずかしい買い物



     1



「おおお…!」


 湯船にじゃぼじゃぼとお湯がたまってゆく様を見て、ミナが感嘆の声を上げる。


 彼女が元いた世界に還る方法を見つけるまで、この家で匿うことになったので、家電や水道、トイレに続いてお風呂の使い方を教えているところだ。


「この世界は、家に温泉があるようなものだな。科学とは素晴らしいな!」

「これはシャワーといって、こっちからもお湯が出せるんだ」


 感心するミナに、試しにシャワーを出して見せる。


「ほほう、手桶で湯を被るより便利だな。それに気持ちよさそうだ」

「これがボディソープ…液体の石けんだ。髪を洗うのはこっち、シャンプーっていうんだ」


 話してみると、ミナの国でもお風呂の入り方は同じだった。浴槽は浸かるだけで、身体は浴槽から出て洗うのだ。


「着替えとか用意しておくから、ゆっくり入ってね」

「うむ、堪能させてもらおう」


 脱衣所を出ると、閉じたドア越しにミナの鼻歌が聞こえた。


 茶の間に戻り、サイフとスマホと自転車の鍵を手にした。


 ふと、ちゃぶ台の横に置かれたミナの剣が目に入った。


 本物の剣か……。


「おっも!」


 好奇心から手に取って、その重さに驚いた。


 ミナが片手で軽々振るっていたから、軽量化の魔法とかかかっていると思っていた。でも長剣は見た目通りの重さだった。


 こんなものを軽々と振るうミナは、たとえ素手の時でも怒らせてはダメだ、と強く思った。


 家を出たオレは、自転車でコンビニへと向かった。

 この辺りは住宅街でコンビニまではちょっと遠い。でも自転車ならすぐだ。


「さて……」


 コンビニの入り口で、オレは大きく息を吸って、気合いを入れた。


 女性用の下着を買うのである。


 平気な顔、当然って顔で買うんだ。恥ずかしがったり、そわそわしてたら余計ヘンな目で見られるぞ。


 そう自分に言い聞かせ、入り口近くにある棚を見る。


 今気づいたけど、ブラは売ってないんだな。パンツだけだ。

 あれ? パンツはレギュラーとサニタリーの二種類ある。サニタリーってなんだ? そういうサイズがあるのか?


 迷っているとおかしなヤツに見られる。こういう時は、二つとも買えばいいんだ。


 オレは決断して、パンツを二種類、三つずつ買い物籠に放り込んだ。

 ついでにTシャツやタオル、歯ブラシ、あと明日の朝食用の食パンとか玉子とかキュウリとか、どんどん買い物籠に放り込む。

 パンツを覆い隠するためだ。どうせレジで見られるとわかっていても、そうせずにいられなかった。


 レジで店員の顔を見ることもできず、会計を済ませると、オレは大急ぎで家と帰った。



     2



「うわわわっ!」


 帰宅して驚いた。


 茶の間でミナがバスタオル一枚という姿で待っていたからだ。


 ベージュのバスタオル越しの大きな二つの膨らみ。くびれたウェスト。ちょっとかがむと見てはいけないところまで見えてしまいそう……。


 あまりの破壊力に、オレはうろたえた。


 ブロンド美少女のタオル姿と畳の部屋の取り合わせだが、違和感なんか感じている余裕もない。


「き、着替えだよ!」


 と、コンビニの袋を渡して、オレはキッチンへと飛び込んだ。


「世話を掛けるな」


 言いながら、コンビニ袋をガサガサするミナ。その音までも、タオル一枚の美少女が立てているかと思うと艶めかしく感じる。

 ヤバい…まだ心臓がドキドキしてるよ。


「サイズ合わないかも知れないけど、今晩はこれで我慢してね」

「……ブラジャーはないのか?」

「ああ、コンビニでは売ってなくてさ……って、ミナの世界にもブラあるの?」

「パンツがあればブラもある。当たり前だろ?」


 あとで調べたら、こっちの世界でもブラジャーって紀元前からあったらしい。オーストリアでは六〇〇年前のブラが見つかったそうだ。

 だからファンタジーな世界にブラが存在してもおかしくないのだ。


「もう良いぞ」


 ミナの声に振り返ったオレは、息を呑んだ。


 ミナはTシャツとパンツだけの姿だったのだ。


 濡れたブロンドの髪。Tシャツ越しの二つの膨らみ。シャツの裾から覗く黒いショーツとむっちりしたナマ脚……。


 バスタオル姿よりも破壊力があるかも……。


「ちょっと待ってて!」


 オレは茶の間を飛び出すと、ジャージを買うため自転車を走らせた。


 目の前に、ミナのあられもない姿がちらつく。胸の奥から、熱い塊がわき上がる。


 これは感動か? 歓喜か? 


 うぉおおおお!


 胸の中で叫び声を上げ、オレはペダルを漕ぎ続けた。


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