1
「おおお…!」
湯船にじゃぼじゃぼとお湯がたまってゆく様を見て、ミナが感嘆の声を上げる。
彼女が元いた世界に還る方法を見つけるまで、この家で匿うことになったので、家電や水道、トイレに続いてお風呂の使い方を教えているところだ。
「この世界は、家に温泉があるようなものだな。科学とは素晴らしいな!」
「これはシャワーといって、こっちからもお湯が出せるんだ」
感心するミナに、試しにシャワーを出して見せる。
「ほほう、手桶で湯を被るより便利だな。それに気持ちよさそうだ」
「これがボディソープ…液体の石けんだ。髪を洗うのはこっち、シャンプーっていうんだ」
話してみると、ミナの国でもお風呂の入り方は同じだった。浴槽は浸かるだけで、身体は浴槽から出て洗うのだ。
「着替えとか用意しておくから、ゆっくり入ってね」
「うむ、堪能させてもらおう」
脱衣所を出ると、閉じたドア越しにミナの鼻歌が聞こえた。
茶の間に戻り、サイフとスマホと自転車の鍵を手にした。
ふと、ちゃぶ台の横に置かれたミナの剣が目に入った。
本物の剣か……。
「おっも!」
好奇心から手に取って、その重さに驚いた。
ミナが片手で軽々振るっていたから、軽量化の魔法とかかかっていると思っていた。でも長剣は見た目通りの重さだった。
こんなものを軽々と振るうミナは、たとえ素手の時でも怒らせてはダメだ、と強く思った。
家を出たオレは、自転車でコンビニへと向かった。
この辺りは住宅街でコンビニまではちょっと遠い。でも自転車ならすぐだ。
「さて……」
コンビニの入り口で、オレは大きく息を吸って、気合いを入れた。
女性用の下着を買うのである。
平気な顔、当然って顔で買うんだ。恥ずかしがったり、そわそわしてたら余計ヘンな目で見られるぞ。
そう自分に言い聞かせ、入り口近くにある棚を見る。
今気づいたけど、ブラは売ってないんだな。パンツだけだ。
あれ? パンツはレギュラーとサニタリーの二種類ある。サニタリーってなんだ? そういうサイズがあるのか?
迷っているとおかしなヤツに見られる。こういう時は、二つとも買えばいいんだ。
オレは決断して、パンツを二種類、三つずつ買い物籠に放り込んだ。
ついでにTシャツやタオル、歯ブラシ、あと明日の朝食用の食パンとか玉子とかキュウリとか、どんどん買い物籠に放り込む。
パンツを覆い隠するためだ。どうせレジで見られるとわかっていても、そうせずにいられなかった。
レジで店員の顔を見ることもできず、会計を済ませると、オレは大急ぎで家と帰った。
2
「うわわわっ!」
帰宅して驚いた。
茶の間でミナがバスタオル一枚という姿で待っていたからだ。
ベージュのバスタオル越しの大きな二つの膨らみ。くびれたウェスト。ちょっとかがむと見てはいけないところまで見えてしまいそう……。
あまりの破壊力に、オレはうろたえた。
ブロンド美少女のタオル姿と畳の部屋の取り合わせだが、違和感なんか感じている余裕もない。
「き、着替えだよ!」
と、コンビニの袋を渡して、オレはキッチンへと飛び込んだ。
「世話を掛けるな」
言いながら、コンビニ袋をガサガサするミナ。その音までも、タオル一枚の美少女が立てているかと思うと艶めかしく感じる。
ヤバい…まだ心臓がドキドキしてるよ。
「サイズ合わないかも知れないけど、今晩はこれで我慢してね」
「……ブラジャーはないのか?」
「ああ、コンビニでは売ってなくてさ……って、ミナの世界にもブラあるの?」
「パンツがあればブラもある。当たり前だろ?」
あとで調べたら、こっちの世界でもブラジャーって紀元前からあったらしい。オーストリアでは六〇〇年前のブラが見つかったそうだ。
だからファンタジーな世界にブラが存在してもおかしくないのだ。
「もう良いぞ」
ミナの声に振り返ったオレは、息を呑んだ。
ミナはTシャツとパンツだけの姿だったのだ。
濡れたブロンドの髪。Tシャツ越しの二つの膨らみ。シャツの裾から覗く黒いショーツとむっちりしたナマ脚……。
バスタオル姿よりも破壊力があるかも……。
「ちょっと待ってて!」
オレは茶の間を飛び出すと、ジャージを買うため自転車を走らせた。
目の前に、ミナのあられもない姿がちらつく。胸の奥から、熱い塊がわき上がる。
これは感動か? 歓喜か?
うぉおおおお!
胸の中で叫び声を上げ、オレはペダルを漕ぎ続けた。