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#05 世界で一番偉いのは?



     1



「我が国の金貨は使えない。魔法で稼ぐこともできない。となれば匿ってもらう礼が出来ないからな」

「お礼とかいいよ」

「私はラファナードの皇女だ。対価も支払わず、一方的に世話になることはできない」


 キリっとした顔でミナが言う。

 こういう所は姫騎士だ。

 でも萌えボイスだから、カッコよさはない。かわいいけど。


「剣聖の称号は伊達ではない。いざとなれば剣を頼りに生きて行くまで」


 彼女は立ち上がり、オレに背を向けた。


 頼っちゃ駄目ぇ! エンド・オブ・タチカワになっちゃうよ!


 でも、どうしたらいい?


 この子はプライドが高い。対価のない施しは受けないんだ。


 …‥ということは?

 お金以外の対価をオレが受け取ればいいのか。たとえば……。


 ……身体で払ってもらうとか。


 細い肩。くびれたウェスト。優美な曲線を描くヒップと脚……ミナのグラマラスな身体に、そんな言葉が浮かんだ。


 だぁあああ! 最低!

 冗談でもそんなこと考えるな! バカ!


 思わず頭を抱え、うずくまってしまう。


「具合が悪いのか? どこが痛いんだ? 私が治療してやるぞ」


 ピュアなミナの言葉がオレの心を抉る。こんな子にオレはなんてことを…と情けなくなる。


 ……治療?


 そうだ!


「じゃあ、交換条件! オレに魔法を教えて!」

「魔法を習いたい、というのか?」

「こっちの世界じゃ、どんなにお金積んでも魔法を習うなんてできない。だから、キミを匿う交換条件ってことで、オレを魔法が使えるようにしてくれ」


 プライドの高い彼女を説得するにはこれしかない。


「本心からの望みか?」


 マジな顔になってミナが言う。


「う、うん」

「では誓いの儀式を行ってもらう」

「ぎ、儀式ぃ?」

「そうだ。我が帝国では師弟の関係は神聖なものだ。まして魔法は大きな力を得るだけに、その責任も重い」


 ……早まったかもしれない。でももう遅い。




     2



「この世界の最高神の名は?」


 ミナが尋ねた。誓いの儀式に必要だという。


「お釈迦様? いやお釈迦様は仏さまか。アマテラス…は日本限定だよな」

「この世界に、神はいないのか?」

「いないことはないけど……」


 ヴィシュヌ、オーディン、ゼウス、アフラ・マズダー…むしろ多すぎて、どれが最高神かわからない。

 キリスト教の神ってヤハウェだっけ? イスラムのアッラーとどっちが偉いんだ? そもそも同じものなんだっけ?


 などと悩んでいると、


「では、こちらの魔法──科学の最高権威は誰だ?」


 と、ミナに聞かれた。


「科学者で一番エラい人? これかな……」


 スマホを手に取り、画像検索する。この人しかいない。


「この舌を出している男が、こちらの魔法界の最高権威か?」


 ミナが呆れたような顔で言う。

 オレがスマホで表示させたのは、アインシュタインの画像だった。


「そうだ。もっとも優れた科学者の一人だ」


 オレの知識では、だけど。


「では、誓いの儀式を執り行う。そなた、名はなんという?」


 ミナに問われ、オレはまだ名乗っていないことに気づいた。


「ハジメ、円城寺 一だ」

「ハジメか…良い名だな」


 ミナが微笑む。

 彼女みたいな美少女に、良い名だ、なんて言われるとくすぐったい。そこに、


 ぶぉおおーん! という音が鳴り、オレとミナを中心に光る魔法陣が現れた。


「科学使いの最高権威アインシュタインに誓う。我ミナはハジメの師となり、彼の者に魔法の技を伝える。汝、ハジメはこの契約に同意するか?」

「──同意します」


 迫力に呑まれたオレは、考える前に同意していた。


「この契約は、ハジメの修行が完遂するか、どちらかの命が尽きるまで有効である。天が落ち、地が裂けようとも違えることなし」


 魔法陣の輝きが一際大きくなる。

 ちょ…! 命尽きるまでとか、天が落ちるとか物騒なワードがいっぱいなんだけど?


「これで契約の儀式は完了だ。これから世話になる、ハジメ」


 かわいい笑顔で言うミナ。


「……クーリングオフってできないかな?」


 オレは、魔法を習いたいと言ったことを後悔していた。


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