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#04 一々上手く行かない事ばかり



     1



「心配いたすな。もう出て行く」


 驚くオレに、ミナはかわいい微笑みを向け立ち上がった。


「どこか当てでも?」

「そんなものはない。元の世界に還る方法を見つけるまで、なんとしても生き抜くまで」


 かわいい顔と声でクールに言って、ミナは背中を向けた。


「待った!」


 オレは思わず、叫んでいた。


「還る方法が見つかるまで、ここで暮らすといいよ」


 ミナは驚いた顔で振り向いた。


「私を匿う、というのか? 私はお尋ね者だぞ」


 ミナは訝しく目を細めた。

 下心あり、と思われたのかもしれない。

 それは……まったくないと言えばウソになるけどさ。


「キミはこの世界のことを知らないし、心配なんだ」


 500ポンド爆弾並の破壊力を持つ子を野放しにするわけにはいかない。

 彼女にとってもこの世界にとっても危険だ。


「では、これは世話になる礼だ」


 と、金貨を10枚ほどちゃぶ台に置いた。


 この金貨、日本で使えるのかな?


「不足か?」


 オレの表情を見て、ミナが聞いた。


「異世界の金貨だから、もらっても使えるかなって」

「我がラファナードの金貨は品質が高いぞ」


 純度が高いってことか。

 でも、どこに持っていけばいいんだろう? 銀行、いや質屋かな?


「この国では、金そのもので取引するところってないんだよ」

「こちらの世界は不便だな」


 ミナは腕組みしてうなった。そして、ぽん、と手を打つと


「では、魔法でカネを稼いで、それで礼をしよう」

「魔法? 破壊力のあるのはダメだよ」

「わかっている。そなた、先ほど切った指を出せ」


 玄関先で、オレは、本物とは知らずミナの剣先に触れ、右手の人差し指を切っていた。血は止まっているが、押したら傷口が開きそうだ。

 その指を差し出すと、ミナは左手で手首を握った。


「どうした?」

「いや、別に……」


 女の子、それもこんな美少女に手を握られたからドキマギしてしまった。


「痛くしないから安心しろ」


 ミナはオレが怖がっていると勘違いしたようだ。それはそれで恥ずかしいが……。


 そんなオレの内面など知らず、ミナは右の手の平を指の傷にかざした。


「お?」


 人差し指の傷が、じんわりと温かくなった。

 よく見ると、傷がかすかに光っている。

 瞬く間に傷は治った。跡も残さず、痛みもまるでなかった。


「すごい! ホントに魔法だ!」

「もっと大きな傷でも、痛みなく、傷跡も残さず治せるぞ」


 と、ミナは豊かな胸をはった。

 美少女は、ドヤ顔もかわいいのだな、とオレは妙な感動を覚えた。


「……あ、でも、これはダメだよ」


 治癒魔法はすごい。でも問題があることにオレは気づいた。



     2



「私程度の治癒魔法では通用しない、というのか?」


 むっとしてミナが言う。お姫さまだからプライドが高いんだ。


「この国の医者は免許がいるんだよ。無許可の医者は罪になるんだ」

「国の免状が要るのか? 法がしっかりしておるのだな」


 呆れ半分、感心半分という口調でミナが言う。


「それに、ミナの正体がバレるかもしれない。この世界で治癒魔法を使える人間はいないから」


 霊能者とかいるけど、あれはインチキだし……。


 ……まてよ。

 中には本物がいるのかもしれない。


 異世界から来た魔法使いが、その正体を隠すため霊能者を名乗っているとか。

 ミナがいるんだ、彼女の他に、異世界から来た人間がいてもおかしくない。


「そうか、私はシメイテハイとやらにされていたのだな」


 ミナの言葉に、オレの思考は中断された。


「もしバレたら、私はどうなるのだ?」

「まず、警察とかが来て……」

「ケイサツとはなんだ?」

「えっと…騎士団みたいなもの?」


 リアルの騎士団は違うけど、ファンタジーものだとそんな位置づけだよな? 


「ほう、この世界の騎士たちか。一度手合わせしてみたいな」


 かわいい声でコワいことを言うミナ。


「いやダメだって! 銃を持っているんだよ」

「ジュウ…とはなんだ?」

「えっと…このくらいの金属の塊を打ち出す魔法具だ」


 指で「このくらい」と弾丸のサイズを見せて説明する。


「それは面白そうだ」


 ああ、戦う気満々だ。むしろ喜んでいるよ! これだからファンタジーな世界の人は!


「人数も多いんだ。何千人っているんだよ」

「それほどの騎士がいるのか!」


 この街には何千人もいないけど、東京全体ならいるだろう。ウソではないよな、うん。


「キミはこの世界の人じゃないから、マズいことになると思う。異世界から来た、なんて言ったらまず病院送りだ。悪くすると魔法の解明のために人体実験……」


 ……さすがに厨二病的思考がすぎるな。


 人体実験はともかく、日本と国交がない国の人、しかも密入国者だからな。ややこしいことになることは確かだ。


 ミナのほうを見ると、彼女は考え込んでいた。そして、


「では、私はここを出たほうが良さそうだな」

「ええっ!?」


 なんでそうなるの?


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