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#03 一から始める異文化交流



     1



「私は、無頼の徒にからまれていた女を助けたのだぞ! 何故、お尋ね者になるのだ?」


 憤慨する彼女の言葉から察するに、ヤクザにからまれていた女性と出くわし。助けようとして乱闘騒ぎになったみたいだ。


「事情を詳しく話してもらえるかな?」


 彼女の言い分を聞けば落ち着くかも知れない、と考えて尋ねた。


「あの時、私は、こちらの世界に飛ばされ、わけも分からずさまよい歩いていた」


 いかにも姫騎士、女剣士っぽい、言い切り口調で話す彼女。

 その姿、そのコスチュームに似合った口調ではあるんだけど、すごい違和感がある。

 彼女の声が、ちょっと舌足らずのアニメ声、萌えボイスだからだ。

 かわいいけどさ。おかげでイマイチ緊迫感がない。


「どのくらい歩いたか…女の悲鳴が聞こえたので、そちらに向かったところ、三人の男が女を取り囲み、罵声を浴びせ、小突いていた」


 彼女はマグカップのお茶を一口飲むと続けた。


「私は身分を明かし、事情を尋ねた。

 ──私はミナ・リリア・ラファナード。帝国の第七皇女である、と」


 やはりこの子──ミナは姫騎士だったか。


「ところがきゃつらは、私の頭がおかしいと笑いおった!」


 彼女──ミナは、ダンっ、とマグカップをちゃぶ台に叩きつけるように置いた。


 うん、まあ、普通は信じないよね。帝国の姫だなんて。

 おまけに、この萌えボイスである。

 気品はあるけど迫力がない。

 オレがヤクザたちだったら、やはり笑ってしまっただろう。


「私は無礼を詫びるよう、剣を抜いて警告した。だがきゃつ等は謝罪どころか、下卑た笑いを浮かべ、更なる無礼を働いたのだ」

「で、叩きのめした、と」

「うむ、ここは異世界。こちらにはこちらの法があろうから手加減してやったのだ。本来なら斬って捨てるところだ」


 オレはぞっとした。


 やはり異世界の人。やはりファンタジーな姫だ。

 萌えボイスに騙されてはいけない。

 彼女は斬り捨て御免な世界から来たの人間なのだ。


 一刀両断されたテレビが目に入った。

 ミナを怒らせたら、人間もああなってしまうんだ。


 こんなヤバい存在、野放しにしていていいのか?

 今からでも警察に通報すべきなんじゃないか?


 オレの目は、ちゃぶ台の上に置いたスマホへと向かった。



     2



「ちょっと聞くけど」


 そっとスマホに手を伸ばしながら、オレは尋ねた。


「ミナってどのくらい強いのかな?」

「どのくらいと言われてもな…自分の身を守れる程度の自信はあるが」

「具体的には?」


 あと少しでスマホに手が届く。

 でも、この子を警察に突き出していいのかな…とも思う。


「恥ずかしながら、大きないくさにはまだ出たことはない。竜や巨人と戦ったが、一対一ではなかったからな」

「竜! 巨人!?」


 ゲームとかだと高レベルで戦う相手だよ?


「その剣で、竜や巨人をその…殺したの?」

「疑うのか?」


 かわいい声で、しかし鋭い眼でミナがオレをみた。


「いや、竜とか巨人からすれば、その剣は小さいかなって……」

「そういうことか」


 小さく笑って、ミナは剣を抜いた。


「ラファナードの剣士は、剣に魔力を込めて振るうのだ」


 ミナの言葉が終わらないうちに、刀身が青白い光を帯びた。

 まるでビームサーベルだ…と思ってたら、光はさらに強くなり、ゆらめく炎となって立ち上った。


「今、この剣を振るえば、この家は両断、木っ端微塵だ」

「お願い、やめて! 買ったばかりの家なんだ」


 思わず両手を合わせ、拝みながら懇願する。それほどの迫力があったのだ。


「心配するな。剣士たるもの、無闇に剣は振るわぬ」


 ミナが微笑む。剣がまとっていた炎が、スイッチを切ったみたいに消え、彼女は剣を鞘に収めた。


 オレは震えが止まらなかった。

 この家が両断、木っ端微塵? 500ポンド爆弾並の破壊力じゃないか!?


 もし警察に通報したら……オレは想像してみた。


 警官隊がやって来る。

 ミナが剣を振るう。

 警官隊、瞬殺。


 機動隊が出動する。SITとかSATとかいう特殊部隊も出て来る。

 ミナが本気で剣を振るう。

 街は阿鼻叫喚、血の海で火の海に……。


 やばい! 通報なんかしたら大惨事だ! エンド・オブ・タチカワになっちゃうよ!?


 オレはスマホから、そっと手を引っ込めた。


「通報はやめたのか?」


 ミナの声に、オレはぎょっとなって彼女のほうを見た。


「それは遠くにいるものと話す魔法機械だろう? 私の世界にも似たものがあるぞ」


 わ、分かっていたのか?


 オレの背中を冷たい汗が流れた。


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