──それは、ある夕方のニュース番組だった。
「
テレビ画面に映る太刀川駅の全景。
四角い駅ビル、特徴的な赤いクロスアーチとそこから伸びる陸橋が見える。
「きょうの午後五時頃、東京都太刀川市の繁華街で、刀のようなものを振り回す女が男たちと争っていると110番通報がありました」
カメラが切り替わり、南口近くの繁華街が映し出された。
まだ赤身を残す空の下、街灯とネオンに彩られた街に人々が行き交っている。
「こちらがその容疑者とみられる女性です」
通行人がスマホで撮影した動画が流れると、数万の視聴者たちはみな呆気にとられた。
いかにもそのスジという男たちが、若い女に叩きのめされている。それだけでも驚きなのに、彼女の姿ときたら──
街灯に煌めく金色の髪。
手にしたのは1メートルはありそうな大きな剣。
グラドルのような見事なボディラインを包む白銀の鎧。
「警察が到着した時、女は逃走した後でした。被害に遭った三人はいずれも命に別状はないとのことです。三人は指定暴力団の構成員とみられ、警察では暴力団からみの抗争事件も視野に入れ、女の行方を追っています」
この映像が流れると、たちまちSNSに
「コスプレ?」
「ゲーム? アニメ? 作品タイトル教えて」
というカキコミがされた。
ニュース映像から切り抜かれた画像、GIF動画が、#コスプレ犯、#リアル姫騎士などのタグがつけられ、拡散した。
しかし拡散はすぐに止まり、トレンド入りすることはなかった。続報がなかったためである。
郊外の街での事件など全国区の話題……スキャンダル、誰かの炎上発言に覆われ、押し流され、忘れられていった。
──これが、あの大災厄のはじまりだったと人々が知るのは、ずっと後のことだった。